魔法の目

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 都から村まで、護衛者であり一時的な弟子として旅をして来た中で、仮ではあるが弟子である僕に、様々な事をぽつりぽつりと教えてくれた。天候の予知や、家畜や農作物のこと。失せ物を見つける方法、怪我や病気の対処法。秘密の魔法の数々。そっと静かに息をひそめて耳をそば立てて聴かないと、聴きこぼしてしまいそうな程に静かで繊細な言葉たち。僕はそれらを黙って、水を飲むように全身に染み込ませた。 「ここが私の家です。」そう言って立ち止まった一軒の小さな家は、この地方の農村によくある丸太を組んで作られたもので、古さを感じるものの温かい雰囲気があった。「さ、どうぞ。狭いですけれどくつろいでください。」  きい、とわずかに軋む玄関扉が開けられ、懐かしい匂いに包まれた。小さな、ごく一般的な居間だ。扉のすぐそば、左手側の角に小さなかまどがあり、その対面の角には鮮やかな風景画がいくつか飾られている。  おじゃまします、と一礼して中に入ると、かまどに火が入っていないにも関わらず、部屋の中はぼんやりと心地良い暖かさがあった。木と灰とわずかに埃の匂い。お母様が亡くなってから近所の人に管理を任せていたらしいが、わずかに埃が被っている以外は綺麗に掃除が行き届き整理整頓されていた。 「今紅茶を入れるので、荷物を置いて座っていてくださいね。」  てきぱきと自身の荷解きをしながら先生は、かまどに火を入れ、鍋に水を張って沸かす準備をしている。小さな窓からは柔らかな夕陽が差し込み、室内は暗くなりつつある。 「暗くなってきましたね。何か手伝えることはありますか?」荷物を置いて、左手側奥にある台所に立つ先生に声をかける。 「そうですね……すみません、じゃあティーテーブルと椅子をかまどの前まで運んでもらえますか?」
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