お腹がすいたポッチ

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 ポッチは熊です。熊といっても普通の熊ではありません。二本足で立って歩くこともできるし、言葉を話すこともできる。ポッチは地球ではないところからやってきた生き物。―――つまり、宇宙人なのです。  ポッチは星々を転々として、その星の文化や文明に触れることで様々なことを学んでいた。自分達の星にはない文化を知ることは、なによりも楽しく、そして、面白かったのです。  ある時、ポッチの身に困ったことが起きました。旅を続ける内に、食料が無くなりかけたのです。もちろん、食料の数はちゃんと確認していたけど、前の星で補給した食糧が失敗でした。前の星の食料はポッチが思っていたより、ずっと腐るのが早かったのです。次の星まで十分に数は足りると思っていただけに、予想外のことに、ポッチはほどほど困りました。  腐った食料は残念だけど捨てるしかありません。このままでは、次の星に着くまでの間に、食料は底をついてしまう。  どこかに食料を分けてくれる星がないか。ポッチはその太い指でコンピュータを操作しながら星を探しました。  幸いにも、人が住んでいる星はすぐに見つかりました。だけど、その星はポッチはあまり近づきたくありません。何故ながら、その星には危険な生物が住んでいると言われていたからです。特にポッチのような生き物を見ると、問答無用で攻撃をしてくるというです。  ポッチは悩みました。だけど、食料が無くなりかけている以上、悩んでいるヒマはありません。背に腹はかえられない。ポッチは太陽系第三惑星である青い星に着陸することを決めました。  ポッチの宇宙船は町から少し離れた森の中に着陸しました。町中に降りたら人々がパニックを起こすかもしれないからです。特に、文明が遅れている星では。  ポッチは用心しながら町へ向かいます。果たして、この星の人と上手く交渉することができるか。万が一に備え、宇宙服はとびきり頑丈なのを選びました。鉛玉ぐらいなら防ぐことができる宇宙服です。これで、少しはなんとかなることでしょう。  時間帯が良かったのでしょうか。ポッチが町で最初に見かけたのは、子供でした。周りには大人もおらず、一人でボールを蹴って遊んでいました。 「やあ」  ポッチは翻訳機が言葉を訳して子供に話しかけました。もっとも、言葉というより考えといった方が近いかもしれません。翻訳機はテレパシーのような働きがあって、ポッチの言葉を電波に変換して相手の頭に直接、伝えてくれるのです。これなら、どんな相手とも簡単に話すことができます。  遊んでいた子供は驚いたようにポッチを見ました。驚くのも無理はありません。銀色の服を着た熊が手を挙げて気軽に挨拶してきたのですから。  さて、ここからが大事です。相手が子供とはいえ、油断できません。過去に見かけが子供だと侮ってヒドイ目に遭わされたことがありました。もし、この子がポッチに対し、攻撃をしてきたら逃げなくてはなりません。お腹が空いていたとしてもです。不要な争いを避けるためには。 「そんな変な格好をしてどこから来たの?」  子供の言葉がポッチの頭に届きました。どうやら、言葉は相手に通じているらしい。ポッチは宇宙からやってきたということは隠しながら、 「ちょっと、旅の途中で食料が底を尽きてしまったんだ。少しでいいから食料を分けてもらえないだろうか。もちろん、金は払う」  ポッチは、まるでこの星の住民であるように振る舞いました。相手が子供だったのが不幸中の幸いでした。ポッチの姿を見ても、騒ぐようなことはしなかった。むしろ、ポッチが珍しいのか不思議そうに見つめています。 「いいよ。家に食料、少し余っているから持っていけばいいよ」 「すまない」  子供の家は目と鼻の先でした。ポッチは子供に案内されて家に通されました。その子はよっぽど優しいのでしょう。知らない人、ましてや宇宙人を少しも警戒などしていませんでした。ポッチは子供の家にあった食料を少しばかり分けてもらいました。もちろん、ポッチはお礼として他の星で手に入れた宝石を幾つかお礼として置いていきました。 「ありがとう。これで、もう少しだけ旅が続けられそうだ」  ポッチは分けてもらった食料を手に子供に手を振りながら森の中に戻っていきました。子供も嬉しそうにポッチに手を振っていた。  宇宙船に無事、戻ったポッチは食料を倉庫にしまうとエンジンを入れると、そのまま宇宙に飛んでいきました。  この星は危ないところだと聞いていましたが、全然、そんなことはありませんでした。子供にしか会っていませんでしたが、あんなにも純粋で優しい子は見たことありません。  母星に帰ったおりは、このことをみんなに伝えようとポッチは思っていました。心優しい子供がいるような星なら、今後、私達と共に宇宙の繁栄を務めるのに相応しい。  もっとも、再びこの青い星を訪れるのは、数十年後のことになりますが。  不思議な熊が立ち去ったあと、子供は道路でボール遊び続けていました。そこへ、母親が買い物から帰ってきました。  なにをしていたいたのか聞かれ、子供は得意気になって熊のポッチに食料を分けたことを教えました。  子供の話を聞くと、母はひどく驚いたように声をあげました。 「まあ。坊や知らない人を家にあげてはダメとあれほど言ったでしょう」 「ううん。僕があげたのは、“人”ではないよ。熊だよ」 「熊?ならいいけど、いい?人は絶対にダメよ。彼らは、自分たちで起こした戦争が原因で勝手に滅びかけているのに、進化した私達から食料や文明を奪おうともくろんでいるのよ。人が現れたら、すぐに警察に連絡するのよ。私もとんで帰るから」 「うん!分かった!」  子供は素直に返事をすると母の暖かな毛だらけの手を握ります。そんな犬の親子の上を、ポッチの宇宙船が帯状の雲を残しながら飛び去っていきました。
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