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※
僕の朝に新しい朝が来た。それはラジオ体操の歌とは違っていた。
彼は明るい昼間で僕は暗い夜。
そう思っていた。
けれど彼は落ちたのだ。
そう思っていた。
星落ちる
刹那の光 闇に溶け
流れた跡と
君の熱
それを彼が作ったのは、まだハイエナのような顔つきになる前だったから、決して彼自身とは考えていなかったはずだ。けれど僕には彼自身に思えた。
彼がどうしてこちら側に来てしまったのか。それは調べようとすればできたかもしれないけど、僕は過去を全て捨て去った後だった。備忘録だけでは辿り着けず、黄色い鼻水をかんでグシャグシャにしたティッシュを、元に戻さなければならない。そんなの到底、白く平には戻せなかった。
それでも特に問題では無いのだと思っていた。昼から夜に変わっても。夜の人間である僕はそう思っていた。
でも彼は変わらなかった。
変われなかった。
彼は変われないけど、落ちてしまっていたんだ。僕はそれに気づかなかった。
だからこのような結果になってしまったんだろう。
昼にも夜にもなれなれなかった彼は、紅の中に落ちた。
※
どこかの会社の屋上から人が飛び降りたらしい。それを僕は夕方に知った。人通りの中の噂に、現場を覗く。そこには赤い世界が広がっていたのだろうか、拭いきれなかった赤い跡が残っていた。それは夕陽に焼かれていっそう赤く燃えているように見えた。
あの夜僕が何かをしていたら変わっただろうか。
彼はとても裕福になり、幸せな家庭も作った。ワンコ界隈ならば、トイプードルみたいなものか。だけどどこかで何かが狂って、飼い主がいなくなったか、引き取られたか、捨てられたか。輝かしい未来と価値は失っていた。
彼は闇を受け入れられなかったのかもしれない。確かに彼は良い人だった。僕は彼をティッシュと共に捨てる事にひどく悩んでいた事を思い出した。
けれど僕は彼がどっちの人間だったのか結局分からなかった。なぜ彼があの短歌を作ったのかもわからなかった。彼には僕に分からない隠し事があるのではないか。そう感じてしまう不自然さだけが残った。そしてそのまま彼はいなくなり、僕の中で彼は変わった。
そこは僕の中の昼と夜の境目のような所。そんな所に彼は吸い込まれていた。
過去の僕にとって彼は初恋だった。
そして彼は僕にとって昼と夜の間。そんな人間になった。
大丈夫さ。
僕は夕方の空に向かってテレパシーを送った。
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