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「でもなんかあったらすぐに云えよ。俺がとっちめてやるからよ」
オニールとエッジワースにそう云われ、ヴァレンタインは少し驚き、途惑ったようにルカを見た。
「ああ、ふたりとも同じ寮のクラスメイトだよ……そっちがトビー、そいつはデックス」
ルカが簡単に紹介すると、オニールはカトラリーを置いてヴァレンタインを見た。
「うん、自己紹介が遅れたね……デクスター・オニールだ。デックスと呼んでくれていいよ。でも、僕のほうは学校の慣習に従ってファミリーネームでしか呼ばないけど、気にしないで」
「こいつはちょっとクソ真面目なとこがあるんだ。気にすんな。俺はトバイアス・ウィルフレッド・エッジワース。かっこいいフルネームだろ、自分でも気に入ってんだ……おまえは?」
エッジワースがそう云うと、ヴァレンタインは少し迷うように俯き、小さな声で云った。
「……セオドア・ルシアン・レオン・ヴァレンタイン」
エッジワースはにっと笑った。
「いい名前じゃん。俺ほどじゃないけどな……セオドアか。じゃあセオって呼んでいいか?」
かしゃん! とカトラリーと皿がぶつかる音がした。
見ればヴァレンタインがフォークを取り落としたまま、なにか怖いものでも見たかのように顔を強張らせている。隣に坐っていたルカはその様子に眉をひそめ、「おい……どうした?」と声をかけた。はっと我に返ったように、ヴァレンタインがルカを見る。
「……なんでもない……」
しんとしたきり、なんとなく妙な空気になったのをなんとかしようとしたのか、エッジワースが「あー、そういえば」と切りだした。
「なんでこんな中途半端な時期に入ってきたんだ? 親の仕事の都合とかか?」
カトラリーを持ち直してキャセロールを口に運ぼうとしていたヴァレンタインがぴく、とその動作を止め、いきなりがたんと席を立った。
そのままトレイも置きっぱなしで歩み去っていこうとするのを「おいヴァレンタイン――」と、エッジワースとオニールが声をかけながら目を丸くして見る。ルカはほとんど反射的に席を立ち、ヴァレンタインの後を追おうとして――ぽんと肩に手を置かれ、足を止め振り向いた。
「……なんだ、ハーヴィーか。今、ちょっと――」
「わかってる。ずっと見てた」
ハーヴィーと呼ばれたのはルカたちと同じウィロウズ寮の上級生で監督生、ハーヴィー・ミルズだった。その背後に同じく上級生、監督生、そして寮長でもあるオリバー・エルドレッド・ルーカスもいた。
こんなときになんなんだと思いながらルカがもう一度振り返ると、もうヴァレンタインは食堂を出ていってしまったのか、どこにも姿が見えなかった。
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