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「あっれ~、ないないない! どこにいったのかしら~!」
教室に入るや否やその悲痛な叫び声は、ゆうまの耳に入って来た。と同時にリュックをガサゴソガサゴソと漁る声の主、保奈美の姿も目に入る。
どうやら彼女、相当慌てているらしく、絹のように美しいロングの黒髪すらも乱している。
「ど、どうしたっての、保奈美? そんなに慌てて」
そんな彼女の慌てぶりに、見かねて思わず尋ねる。
ま、どうせまた筆記具か教科書でも忘れたんだろう。
そうあらかた予想していたゆうまだったが、しかし、保奈美からは予想だにしなかった返答が返ってくる。
「あのね、実はさっきの授業の後から私の老眼鏡が見あたらなくなっちゃったの」
「な、何だって!?」
くわっとゆうまの目が見開かれる。と共に顔色がどんどん青ざめていく。
無理もない、実は老眼鏡を無くしたという美少女、風間 保奈美の正体は、昭和47年生まれ、実年齢47歳の美魔女であったのだ。彼女は年齢とは反対に、見た目は16歳の頃のままという不思議な特異体質の持ち主であり、それを利用してこの私立高校に不正に通っている存在であった。
しかし、その事実を知る者はゆうまや校長を含め、ごく少数であり、他の人々には隠し通しているのである。
それにも関わらず、老眼鏡を無くしたということは、とどのつまり、他の人に発見された場合、勘づかれるなどして保奈美の正体がバレてしまうリスクが生じるということであるのだ。
もしバレるようなことになれば真実を知っていたゆうまが咎められるのはもちろんのこと、ニュースで全国区にまで広まれば、この学校に傷がつく可能性だってあるのである。また保奈美は保奈美でその体質を巡り、組織から研究対象として狙われる可能性も出てくるのである。
ゆうまは焦る。
「何で無くしちゃったんだよ! だいたい、いつもは学校じゃコンタクトレンズをしてくるじゃないか」
「それが今日は遅刻しそうで急いで来たからコンタクトレンズをして来れなかったの。どうせ後でトイレに行って老眼鏡からコンタクトに変えられるからと思ってたし。でもまさか無くなっちゃうなんて」
そう言ってテヘペロと舌を出す保奈美。
まったく反省しているのか、していないのか……。そもそも保奈美は見た目こそ若いが身体や機能などは既に年相応であり、激しい運動も出来なければ細かい文字も裸眼では読めなくなっているのである。それなのにどうして高校生のフリなんかをして通っているのだろうか……。
しかし、考えている暇など無い。今は一刻も早く老眼鏡を見つけるのが先決である。
そう考えたゆうまは「どこに置いてきたか覚えているかい?」と聞く。
「うーん。確か前の時間の授業でタピった時にはめてたから……」
「ん? タピった?」
「ほら、情報の授業でタイピングしたじゃない。あれのことをタピったって言うんでしょ」
「いや、それ使い方違うんだけど……」
ゆうまはツッコむ。そんなこんなで話込んでいると「それじゃあ、パソコン室で外したまま置いてきたんじゃないの?」と、元気いっぱいの明るい声が割り込んでくる。
その声の主は風間 甘美。同クラスで事実を知る人物の1人であり、何を隠そう保奈美の実の姪に当たる栗色ポニーテールの活発少女だ。
どうやら今までの会話を聞いていたらしい。
「まったく、保奈美姐さんてば物の管理くらいきちんとしてよ。もし姐さんのことがバレて一番被害を被るの、姪であるあたしなんだからね!」
そう言ってビシッと保奈美を指差す。その表情は呆れていた。
「わ、分かった。それじゃ、そろそろ次の授業開始時間だからそれが終わってからパソコン室に行ってくるわ」
姪の指摘にタジタジの保奈美は、そう約束して席につく。
これにて事件は一応の決着がついたかに見えた……、が、しかし、事件はまだ終わっていなかった。
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