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そのときだった。
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴り響く。
ーーこんなときに……
僕の口からそう漏れそうになった瞬間、
「こんばんはー!谷川圭司さーん!シロネコ宅配でーす!」
元気が良すぎる声が部屋の中へと響いてきた。
「出てきていいよ」
「ごめんね」
美咲ちゃんにそう詫びて僕は玄関を開けた。そこにはシロネコ宅配の制服をビシッと着こなした体育会系の若い男が立っていた。
「谷川圭司さんですか?」
「はい。そうですが」
「谷川様宛にお荷物がとどいていまーす!」
無駄にデカい声が部屋の中へとこだまする。
「お届け主は『ねこのみみ』様でーす!中身はええと……フィギュアになってますね!」
「ちょ!ちょっと声大きいですって!」
僕は思わず男にそう告げた。「ねこのみみ」はヲタクの聖地・秋葉原に本店を構え、アニメの同人誌やフィギュアなどを主力販売品としているグッズ販売店だ。全国に店舗を構え、最近ではネット通販方面にも業務を拡大している。これでは
「谷川圭司は『ねこのみみ』から太ももピチピチで胸元が強調されたきわどい衣装のフィギュアを取り寄せた」
とアパート中に宣伝しているようなものだ。人間の偏見は恐ろしい。たとえ事実とは違っても、噂とはそういう形で流れてしまうものなのだ。
「とにかく、サインしますんで……」
なんとかこの空気読めない体育会系の男を退散させようとする僕。しかし男はペンを僕に渡さずに言葉を続けた。
「こちら代金引換のお荷物ですので……8778円になります」
しまったぁ!と僕は心の中で叫んだ。振込手数料を惜しんで代金引換での発送を頼んだのも、夜間指定の配達希望を出したのも、紛れもなく僕自身だ。何かを忘れている気は確かにしていた。記憶のエアポケットに入っていたのはこれだったのだ。もちろん、よりにもよってこんなタイミングの悪いときに、こんなタイミングの悪い奴が配達に来るのは計算外オブ計算外なのだが。
「わかりました」
僕は願いを込めながらお尻のポケットから財布を取り出す。野口英世を1枚、2枚……と数えていき、僕は思わず眉間にしわを寄せた。
――うわっ!1枚足りない。どうしよう……
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