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「あ、あ、うん」
上ずりそうな声をなんとかしようとしてさらに不自然な声を出す僕。
「へえ。ところで『ねこのみみ』から何を買ったの?」
――そ、そこは突っ込まないでくれ美咲ちゃん……僕は嫌われたくないんだ!
「い、いやまあその……なんやかんや色々と買ったんだよ」
「あ、ワレモノ注意ってなってる!」
しどろもどろになっている僕を尻目に、美咲ちゃんは荷物に貼られている赤いシールを見つけてしまった。カシスウーロンでほろ酔いになっているはずなのに……いやはや、女の子の観察眼は恐ろしい。
「っていうことは、フィギュアかプラモっていうところかな?」
図星だ。なんという推理力だ!
……って感心している場合じゃない。
「ねぇ、教えてよー!」
お願いだ。頼むからそんな甘えた顔で上目遣いをしないでくれ。これを開けた瞬間に世界が終わりそうな気がするんだ。
「あ、隠しごとはいけないんだぞー?」
今度はぷっくりと頬をふくらませてくる。この期に及んでそんな可愛い顔を見せてくるなんて、卑怯だ。
「千円貸してあげたよね?だったら教えてくれたっていいんじゃない?」
今度はピンポイントで痛いところを突いてきた。もうここまできたら僕にはもうどうすることもできない。僕は意を決して、首を縦に振った。ガムテープで閉じられている重い扉がバリッ、バリッと音を立てながらゆっくりと、ゆっくりと開かれていく。
「見えてきたよ……あっ!」
美咲ちゃんが瞳を見開いた。段ボール箱から姿を覗かせたのは魔法のステッキを右手に携えた6分の1サイズのフィギュア。日曜の朝に放映されていたアニメ「まじかるパルランテ」に出てくる魔法少女・ルルカちゃんの姿だった。
ーー終わった……全て終わった…………
僕の気持ちは何故か、軽かった。刑事ドラマのラストシーンで犯人はとても穏やかな表情を見せることがたまにある。きっと今の僕のような気持ちなんだろう。僕はこの「まじかるパルランテ」を作画している桂川たかはる先生の大ファン。思い切ってルルカちゃんのフィギュアを買ったのも、
「まじかるパルランテで一番描くのに頭をひねったキャラクターだ」
と桂川先生がインタビューで答えていたからだった。また、桂川先生が手掛けているのはこのような美少女アニメだけではない。三国志をモチーフにした「鳳凰の雛」や、宇宙戦隊ものの「XXXプレジデント」などの作画も手掛けている。別に僕は美少女アニメだけが好きなわけではない。でもこの現物を見られたら、確実に誤解される。そして言い訳をしようものならドツボにハマるのは間違いない。もはやどうしようもないのだ。
Love is over……どこかで聴いたことのあるフレーズとメロディが僕の頭の中に流れ始めた。
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