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「この子はお腹が空いたときくらいしか泣かないですよ。育てやすいと思います」
高木Drの言葉がなくても、この子からは十分なほど穏やかな性質が伝わってくる。
「あぶぅ、、ぶぶぶぅ、キャッ、キャッ!」
なにが面白いのか赤ちゃんは、わたしを見つめて機嫌よく笑いだす。
「まぁ、ご機嫌のいい子ちゃんね」
見た目も大事だが、性格はもっと大事だ。
一緒に不妊治療をしていた有森瑞季が、一昨年前に産んだ子を思い出した。
治療の甲斐あって授かった瑞季の子は、始終泣いてばかりいて、育児を楽しめていないことは明らかだった。
その上、女の子だというのに、ゴリラ顔した御亭主そっくりで、気の毒なことこの上ない。
せっかく念願叶って授かった赤ちゃんだというのに。
ふふっ。
思わず意地の悪い笑みがもれた。
「この子のご両親はどんな方?」
こんな可愛い赤ちゃんを手放すなんて、どんな理由があったというのだろう。
「大きな声では言えませんが、父親はエリート官僚です。母親は世界的にも有名な美人バイオリニストでして、いわゆる道ならぬ恋ってヤツです。本当は素性、明かせないんですよ。今の話、内緒にしてくださいね。絶対に秘密です」
見た目が美しいだけじゃなく、素晴らしいDNAを受け継いでいる子。
会ってまだ五分も経っていないというのに、もうこの子のいない生活など考えられなくなっていた。
この子はもう、わたしのものよ。
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