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不妊治療
二十七歳の時から不妊治療を始めて十年。高木医師はその間一緒に戦ってきた戦友だ。
夫以上にわたしの気持ちを理解し、慰め、励まし続けてくれた。
だけど、その願いはどうしても叶えられなかった。
体外授精させた受精卵は、着床できずに流れてしまって、妊娠は難しかった。
十年間の不妊治療は、筆舌に尽くしがたいひどい苦痛を伴うものだった。金銭面でも三百万円以上の治療費を無駄にした。
同じく不妊に悩んでいた瑞季が妊娠したという知らせを聞いたときは、先を越されたショックと悔しさで、眠れない日々を過ごした。
瑞季が産む赤ちゃんのことが、一日中頭から離れなくなり、体調を崩して鬱のようになった。
主人も子供はもう諦めよう。これからは二人だけの人生を楽しもうと、前向きに言ってはくれたけれど………。
気持ちは少しも晴れることなく、子供への執着は増す一方だった。
わたしに気兼ねをしたのか、瑞季からの連絡は途絶えたけれど、元気な女の子が生まれたことは、どこからともなく風の便りで耳に入った。
瑞季の産んだ赤ちゃんが見たい。
旭川の実家に里帰りしていた瑞季が、三ヶ月になった赤ちゃんと札幌に戻って来ていると聞いて、早速プレゼントのベビー服を持って訪問した。
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