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4. Sweet Thursday
木曜日、午前十時。他のメンバーがみな仕事に出かけ、しんと静まり返ったリビングで、さっき起き出したばかりの赤井木乃実は一人、朝食を食べ始めた。
木乃実の職場は、池袋にあるアニメコラボカフェ。勤務開始は午前十一時半からとやや遅めで、三十分前に家を出れば充分間に合ってしまうのだ。
朝食のメニューはいつも通り、バターをたっぷり塗ったトーストとマヨネーズまみれのスクランブルエッグ、そして大量のウインナー。朝から高脂質をペロリと平らげるのが彼女の常である。
ところが、今日の木乃実は少しも食が進んでいない。トーストはふたくち齧ったまま放置され、ウインナーもまだ一本。スクランブルエッグに至っては、マヨネーズをかけ忘れている。
原因は至ってシンプル。特に体調が悪いわけでもないのに食欲がないのは、もちろん気に病むことがあるからだ。
(あれ、何だったんだろ……)
昨晩の午前一時過ぎのこと。自室でアニメ『鉄砲乱舞』を観ながらスナック菓子をほおばり過ぎて喉が乾いた木乃実は、階下のリビングへと降りて行ったのだ。
「だから! そんなの炎珠の勘違いだって言ってるでしょ! しつこいなあ!」
階段をちょうど降りきった時、玄関の方から聞こえて来た大きな怒声に、思わず足を止めた。
(え、今の……水羽姉様?)
木乃実は一瞬耳を疑った。あの冷静な水羽が声を荒らげるところなど、今まで見たことも聞いたこともなかったから。しかし、声色は紛れもなく水羽だ。
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