最悪の客人

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 最悪の客人とは、入ってきてすぐにトイレを借り、手も洗わずに出てきて、挨拶もそこそこにお金の話をし、この部屋は暑いと言って無理やりテラスへ案内させ、椅子の調子が悪いから修理した方がいいと良からぬ世話を焼き、魚料理には白ワインが合うんだと誰もが知っていることを語り、親戚の自慢を聞いてもいないのに話しだし、今日の用事はなんだったっけと忘れたふりをしながら散らかすだけ散らかして帰ってしまうような輩を、わたしは最悪の客人とみなす。    そんな最悪の客人への対応は簡単である。   その最悪な客人の家を訪れ、下剤を飲んでトイレに入り、手を洗うことなく出てきて、挨拶もそこそこに今一番儲かるのは老人のグループホームの経営だという話をし、この部屋は風の通り道がないと言ってテラスに案内させ、安物の素材で作った椅子の寿命を心配してやり、赤ワインには肉料理が合うと教えてあげ、遠い親戚が以前紫綬褒章に選抜された過去を語り、今日の用事は忘れてしまったけれど帰ったらもしかしたら思い出すかもしれないとつぶやきながらコーヒーを中途半端に残して帰ればいいのだ。  そして最悪な客人に「今度またお宅にお邪魔してもいいだろうか」と引きつった笑顔で提案されたらこう言えばいい。 「いらっしゃるときは周囲にバレないように隠れながらぜひ裏門からどうぞ。うちに入る空き巣はいつもそこを使うのです」
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