白の章1──藤堂──

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「──旦那様。  さきほど物音が致しましたが。なにか御座いましたか?」  中から答えはなく、沈黙だけがある。 しかし、このまま戻るわけには行かない。 私には、この家を守るという使命があるのだから。  何事も無くとも、主の無事を確かめてから戻るのが正しい番頭の在り方であろう。 「──ご無礼を」  聞いて居る者がいなくとも、そう一言断りを入れてから、からりと障子戸を開く。  広い寝室には、真ん中に主のベッドが鎮座している。 その枕辺には眺めのよいように大きくとられた窓がある。  市岡老は眠っておられるようで、かすかな寝息が漏れ聞こえた。  ──物音は、私の聞き違いだったのだろうか。  そう思って退出しようとした、その、刹那に。  上げた視線の先、大きく月明かりの差し込むその窓に、私は見てしまったのだ。 「……!!」  嗚呼、窓に……窓に……!!  ──人影がはりついているのを……!! 「よう、おっさん。はよ、ここ開けて」 「二ノ宮あああああぁぁ!!」  人影はあろうことか、招かれざる隣人、二ノ宮であった。  隣人と言っても、その距離は数百メートルに及ぶ。  しかしそんな距離をものともせず、勝手に敷地内にはいりこむ、ゴキブリのような図々しく汚らわしい存在。 それが二ノ宮だった。  なぜだ。 どういうことだ。  この男の侵入を阻むために、大幅強化した警備システムだったのに。
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