白の章1──藤堂──

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「ここあっついねん。中は冷房きいてんやろ?」 「貴様……貴様、どこから入り込んだ!」 「どこて……。そこの庭の垣根の隙間から」 「鉄壁の警備システムに、そんな隙が!?」  あれほどの予算をつぎ込んだ警備システムに穴があっただと? まさかそんな、ありえない。  しかし事実、ここに入り込んだ二ノ宮は、べたりと窓にへばりついてねだる。 「なあ、はよう。はよう開けてくれや」 「……」  ──落ち着くんだ、私。  この男を相手に取り乱してはいけない。 それは奴の思う壺なのだ。 「……不法侵入で訴えるところだが、今日のところは見逃してやろう。  即刻、立ち去りたまえ」  今更に重々しく言ってみたが、効果は期待できない。 奴の面の皮は核シェルターなみに厚い。 「……藤堂君?……どうしたんじゃ?」  ふいに布団が持ち上がり、むくりと小柄な人影が起き上がった。 どうも騒ぎに気付いて市川老が目を覚ましてしまわれたようだ。  主の眠りを妨げてしまうとは、なんたる失態。 「申し訳御座いません、旦那様。二ノ宮の奴めが、不法侵入を……」 「あ、ニイッチャン、来たの。  いいんじゃよ、わしが呼んだんじゃ」 「……はい?」 「開けてー、はよ開けてー」  私が戸惑っている隙に、旦那様が窓を開けて二ノ宮を中に入れてしまわれた。 いったい、どういうことなのだろう。 「呼ばれたから来たのに、もう寝てるとかひどいんちゃうか、爺さん」 「すまんの。遅かったから、もう明日にするのかと思って、寝てしもうてな。  ほれ、わし、年なんで早寝じゃから」
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