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「……旦那様……。これはいったい……」
時刻は午前0時。
どう考えても隣人宅を訪問する時刻ではない。
ましてや旦那様の方から呼び出したとは、どんな訳があってのことなのか。
「ああ、藤堂君にまで迷惑かけてしまって、すまんの。
ちょっと急用ができてしまってな。
ちょうどいい、藤堂君にも話しておきたいんで、少し眠気覚ましに茶でもいれてくれんかね」
「……承知いたしました」
その程度のことは、主のお言いつけとあらばお安い御用です。
だがしかし、その前に訊ねておかねばならない事があります。
「──旦那様。こやつ、庭の垣根の隙間から侵入したと言うのですが。
先日、厚くしました警備に手抜かりがあった様子。いかが致しましょう」
「あ、それ、わしが教えたんじゃよ」
「──はい?」
「あの警備、出入りが面倒くさくてなあ。ちょっと、垣根の一部を壊して通れるように工事の人に御願いしておいたんじゃ」
「え……」
「夜中にアイスが食べたくなって家を抜け出すのに、いちいちシステムを切るの、不便じゃろ?」
「……」
そんなことしてたんですか、旦那様。
アイスなど、言ってくだされば私が買いに行きましたものを。
いや、問題はそこではない。
あの警備システムは不審者の侵入を防ぐために、苦心惨憺して敷いたもの。
不審者──すなわち、その仮想対象は二ノ宮。
だというのに、その二ノ宮本人に警備システムの穴を教えてしまうとは。
──蟻の一穴、という言葉がこの国にはある。
どれほどに巨大な堤を築こうとも、小さな蟻のあけた穴ひとつから、全てが崩れ去ってしまうのだ。
……台無し……。
全てが台無しです、旦那様……!
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