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番外編:ポッキーの日
「秋斗!ポッキー買って来たけど食べね?」
「くれるなら貰うけど、どうしてポッキーなんだ?」
コンビニから出て来た僕は、ポッキーの箱を手に持ったまま、先に会計を終わらせて、外で待っていてくれた秋斗に話しかける。
「ほら、この前ポッキーの日だったじゃん」
「ああ、11月11日な」
「そうそう。その時に食べ逃してたからさ。秋斗も食べようぜ」
「絶対に食べないといけない物でも無いだろ、ポッキーなんて」
僕が1箱に2つ入っている小袋の片方を差し出すと、秋斗は文句を言いながらも袋を受け取ってくれる。
「何言ってんだよ。2月のバレンタイン。3月のホワイトデー。11月のポッキーの日だろ」
「空斗の中でのポッキーの日は、そこまで大きい行事なのか」
「いや。カップルがポッキーゲームとか言ってイチャイチャしてたから」
僕がこのイベントを覚えていた理由を話すと、秋斗は呆れた顔をして、額に手を当てながら夜道を歩き始める。
「なんだ。空斗の私怨が籠っているだけか」
「私怨だって籠るさ。僕はこのイベントには何の思い出も無いんだ」
頭を抱えたまま歩く秋斗の横に、僕は少し速足になって追いつくと、ペラペラといつもの様に話を続ける。
「だからって、わざわざ遅れてまで消化するイベントでも無いだろ」
「分かってないな、秋斗は。このポッキーはな。半分で食べられる訳でも、残り一本しかないから、食べかけならあげようか?みたいな。カップルの定番イベントに使われる為に作られた訳でも無いと僕は思うんだ」
「勝手に妄想して勝手にヒートアップするなよ。なんだか気持ち悪いぞ」
秋斗は僕の演説に対して冷たい言葉を返すと、僕から受け取ったポッキーの袋を開けて、1本取りだす。
「……確かに今のは気持ち悪かったさ。それは認めよう。ごめんなさい」
僕はわざわざ足を止めると、秋斗に向かって頭を下げてから、またすぐに秋斗の横に走って行って話を戻す。
「たださ。秋斗が今食べている。そのポッキーと、僕の手に持っているポッキーの袋を見て欲しい。2つ入ってるんだよ」
「そうだな」
「2袋入ってるんだから、こうやって分ければよくね?」
「まあ、それもそうだな……」
「それに1本くれってあんまり言わなくないか?」
「いや。空斗はよく僕に言ってくるな」
「うん。この話は分が悪いから無かった事にしよう」
「おい」
分が悪くなった僕は詭弁を止めて、ポッキーの袋を開けると、1本取り出して口にくわえる。
「まあ、簡単に言うと、世間が賑わってる中。イベントに参加出来なかった事が、寂しかっただけです」
「はあ……まあいいんじゃないか、ポッキーそんなに食べないし、年に1回くらいこうやって食べてもさ」
「男同士だし、甘いイベントでも無いけどな」
「なんだ。僕と一緒に食べるのは不満か?」
秋斗の性格の悪い質問に、僕は諦めを覚えて、自分に言い訳をしながらポッキーを折る。
「……いいや。こっちの方が気楽に食べられるだろうし、僕にはこっちの方が美味しいや」
「それは良かった」
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