二件目

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職員室に着くと先生は直ぐ一枚の紙を持ってきてくれ、そこには『校内放送、ゲスト急募‼』と書かれていた。 「放送部の手伝いだな、詳しくは放送部に行って説明してもらってくれ、多分今頃困っているだろうから」 その先生の助言の元、僕と秋斗は放送室の前へと足を運んでいた。 放送室に着くと、ドアの前に、先程先生からもらった物と同じチラシと、名簿欄があったがその名簿欄には一人たりとも名前書かれていなかった。 「どうやら誰も立候補していないようだな」 秋斗は僕にどうするのかを委ねるように僕の顔をじっと見てくる。 「まあ、入ってみたらわかるって。失礼します。探偵部ですが」 僕が挨拶をしながら扉を開けると、ガタッと音と共に放送室内の生徒たちが立ち上がってこちらを見つめてくる。 「ゲスト候補の方ですか?」 一人の男子が僕達に近寄ってきて必死な様子で話しかけてくる。 「え、えっと。山川先生に困ってるんじゃないかって聞いて力になれたらなって思ってきたんですけど」 僕はその様子に戸惑いながら説明すると、男子生徒は涙目になりながら大きな声を出す。 「で、ではゲストとしてお願いします」 どうやら秋斗が考えた通りゲスト候補が来ていなかったようで僕は助けを求めるように秋斗の方に視線を送る。すると秋斗は少し微笑んで息を吐いてから声を出した。 「承りました」 翌日、あちらこちらから楽しそうな声が聞こえてくる昼休みに、僕と秋斗は昼食片手に放送室に訪れていた。 「やあ、ようこそ放送室へ、3年で部長の渡辺だ。昨日の今日で申し訳ないがよろしくな」 「西嶋空斗です。こちらこそよろしくお願いします」 渡辺先輩は僕達に笑顔を向けながら握手を求めてきたので、僕が代表して握り返す。僕の様子に先輩は満足そうに微笑むと、僕の後ろでカチコチなっていた秋斗の方に目線を送る。 「あ、えっと新垣秋斗です。お願いします」 「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。とりあえずそこ座ってて」 秋斗の小さく震えた声に、渡辺先輩は楽しそうに声を出して笑うと僕達にマイクの置いてある椅子へと誘導する。 そのまま渡辺先輩は機材の調整に行ってしまい。僕達は二人その机に取り残されてしまう。 僕が緊張しながら椅子に座ると、一緒に歩いていた筈の秋斗が一向に横に座らないのを不思議に思い、僕は秋斗の方に視線を送る。 そこには顔色が真っ青になって、茫然と立ち尽くしている秋斗の姿があった。 「秋斗、大丈夫か?」 「あ、ああ。そういう空斗だってさっきから顔が引きつってるぞ」 そんな皮肉を言いながら秋斗は思い出したかのように僕の横に座るが、秋斗が人前に立つのを好かないことを知っている僕がそれを強がりだと分かるのは当然だった。 「俺だけでもいいんだぜ?話すのは得意だし」 僕がそう言うと、真っ白な顔のまま秋斗は僕の事を睨みつけてくる。 「僕達二人で受けた依頼だ。二人でするのに意味があるんだよ」 「分かった。お前は言い出したら人の話聞かないもんな」 その真剣な秋斗の表情に、少しでも気がまぎれたらと思い僕が得意の皮肉で返すと、秋斗の顔は力が抜けた様にスッと笑みに代わる。そのことがなんだか少しこそばゆかった。 そんな会話をしていると、機材の調整が終わったらしい渡辺先輩が帰って来きて、僕達の顔を見て笑いながら僕達の反対側に座る。 「二人ともそんなに身構えなくていいからね。じゃあそろそろ始めようか」 渡辺先輩の言葉に恥ずかしくなって僕が目を背けると、秋斗も同じだったようで目があってしまう。 そんなことに僕達は笑いそうになるのをこらえてから、しっかりと渡辺先輩の方を見て、返事をした。 軽快な音楽が放送室を占領していって、それと共に空気が切り替わるのを感じて僕はマイクに音が乗らないようにフーっと息を吐く。 そんなことをしていると、先程まで鳴っていた音楽が止まり、別の音楽と共に渡辺先輩が話始める。 「こんにちは、今日も始まりましたお昼のラジオ。今日は前々から募集していたゲストの二人に来てもらっています。では自己紹介をどうぞ」 そう言うと、渡辺先輩は分かりやすく僕から秋斗の順番でと言ったようにジェスチャーを送ってくれる。 「探偵部の西嶋空斗です。今日はよろしくお願いします」 「同じく探偵部の新垣秋斗です」 秋斗の声は小さくて、僕まで緊張を思い出しそうになるが、渡辺先輩の満足そうな顔を見て、僕もきっと秋斗も少しだけ落ち着いていくがわかる。 「探偵部、そんな部活あったんだね。具体的に何をしている部活なんだい?」 「えっと…先生の手伝いだったり、落とし物探しなんかが殆どなんですけど、たまーに恋の相談だったり、そんな感じです」 「ほー、そうなんだね。僕も今度お邪魔しようかな。秋斗君は成績優秀だって聞くし勉強とか質問しにいっても良いかな?」 「そ、そうですね僕で教えられることであれば大丈夫です」 秋斗の緊張はまだまだ解けそうになく。渡辺先輩は苦笑いを浮かべながらラジオを続ける。 渡辺先輩は部長という事もあってか、途中から僕はただ会話を楽しんでいてあっという間に終わりの挨拶に移っていた。 「さてそろそろ終わりだけど、今日はどうもありがとうございました。二人のお陰で楽しい放送になりました」 渡辺先輩は本当にそう思ってくれているのだろうと思える程の笑顔でそう言うので、僕まで笑顔になってしまっていた。 「こちらこそ、楽しかったです。また来たいぐらいです」 「空斗君は嬉しい事言ってくれるね。でも秋斗君は疲れちゃったかな」 渡辺先輩の発言から分かるように、後半は結局僕と渡辺先輩の会話が基本で、秋斗は相槌を打つだけになってしまっていた。 「やっぱり秋斗君には無理させちゃったかな」 渡辺先輩の言葉に秋斗は戸惑いながら僕の方を一瞥してからマイクをちゃんと見て発言をする。 「いえ、楽しかったですよ。僕はこういった場に出るのは苦手ですけど、空斗が頑張ってくれるので」 秋斗から出て来たその言葉に、僕は全てを見透かされた様に感じて恥ずかしくなってしまい、そっと目を逸らしてしまい。そしてそれを見ていた渡辺先輩は、マイクがあることなど気にもしないで大きな声で笑い始めてしまう。 「ハハハ、君たちは本当に仲が良いんだな。うん、二人は探偵にピッタリだと思うよ」 「はい。何かあれば是非、僕達の所に相談しに来てください」 秋斗は最後に頑張ろうとしてくれ、その頑張りは僕と渡辺先輩にはしっかりと伝わったようで、渡辺先輩はそんな秋斗を気に入ってくれたらしく、そこからは終始笑顔のままラジオを閉めてくれた。 お昼にあんな依頼があったにも関わらず、僕達はいつも通り部室に集まっていた。 「渡辺先輩、良い人だったな。なんか『ザ・先輩』って感じの人だったな」 僕が椅子に座りながらそう言うと、対面に座って本を読んでいた秋斗が本を置いて話を始める。 「ああ、優しい人だった」 僕達に先輩が居ないのもあってか、渡辺先輩が凄くしっかり見えたのかもしれない。 「秋斗はすっげー緊張してたけどな」 「空斗は楽しそうだったな」 「秋斗は楽しくなかったのか?」 僕が身を乗り出しながら秋斗に質問をすると、本をもう一度手に取って恥ずかしそう顔を隠しながら答える。 「いいや、楽しかったさ。ただ次があるならせめて半年後位が良いな」 「そうだな」 僕達は笑いあってから「今日は疲れた」そう言って、部活をはやめに切り上げ、夕日を浴びながら帰っていった。
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