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嘘でしょ…このふざけた男が?
江戸で彼の名前を知らない人はいないほどの、超有名人だったなんて……
「貴方様がかの有名な絵師の歌山花月殿でしたか!いやあ〜一目見た時から只者でないと感じておりましたっ。」
嘘つけ楼主…馬の骨呼ばわりしたじゃないか。
「わっち歌山様が描いた浮世絵持っとるんよ?お目にかかれてホンマ光栄やわあ!」
高尾姉さんにいたっては乙女みたいにはしゃいでいる……
海老様のファンではないけれど、花月様のファンではあったようだ。
楼主も花魁も一瞬で虜にしてしまった。
どうしよう…この流れではこのままこいつと水揚げすることになりそうだ。
下っ端の私に拒否権はない。
がっ……!
「私はゴメンです!こんな奴とヤルくらいなら狸や猿や蛙とした方がマシです!!」
「まあ小春ったら。若くて男前がいい言うてたやろ?歌山様やったらそのものでござりんす。」
男がニッと笑い、よく見ろとばかりに顔を近付けてきた。
確かに男前は認めるけれども、こいつの無粋な性格がイヤなの!
「おじょう際が悪いな。俺は約束通り百両持ってきたんだ。観念しろ。」
確かに言ったけど…まさか本当に持ってくるなんて夢にも思わない。
ここでしつこくゴネれば女が廃る……
いくら人気絵師だからと言っても千両なんて途方もない額をたった三ヶ月で調達出来るわけがない。
きっとホラを吹いているんだ。となれば……
「分かった私も腹をくくる。でも千両持ってくるまでは私の体には指一本触れさせやしないから!」
男を指さしかっこよく決まったあ…と思ったのだが、楼主に後ろからぶん殴られた。
「アホか小春!今から歌山様と水揚げや!!」
………へっ?
ささ、ささ、こちらへと言って楼主は男を稲本屋へと案内し始めた。
「小春もはよ付いてこい!」
ちょちょ、ちょっと待って……今からってマジで?!
助けて欲しくてすがるように高尾姉さんを振り返った。
「取って食われるわけじゃあござりんせん。おさればえ。」
にこやかにお見送りをされてしまった。
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