本気も本気

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「だったら、惚れた女を無理やりにでも抱きたいって思わないの?」 何を聞いちゃってるんだろうか私は…… 「待って、今のは無しでっ……!」 これじゃあまるで、襲ってくれとおねだりしてるみたいなもんだ。 恥ずかしくて真っ赤になってうつむいている私の頬っぺたを、花月はプニプニと嬉しそうにつまんできた。 「こんな初心(うぶ)な仕草…今日で見納めにするなんて勿体ねえだろ?」 そう言うと歌舞伎役者みたいにカッカッカッと豪快に笑った。 今日頂いた100両は相場の倍以上で、中には私との水揚げ料だって含まれている。 本来ならばお代を受け取った以上、きっちりと御奉仕して返さなければならない。 なのに、何もしなくてもいいだなんて…… 「夜は冷えるな。小春、寒くないか?」 花月は脱がせた着物を私の肩にかけると、そのまま腕の中へと抱き寄せてくれた。 ……あたたかい…… こんな温もりを味わったのはいつ頃前だっただろうか…… 4d42f92b-c760-43f4-a753-04aa583d3b7a 正直、全く怖くなかったのかと言えば嘘だ。 普通なら水揚げなんてこと…相手を深く知ってお互い好き同士になり、信頼をなし得てからするもんだ。 でもそんな空蝉(うつせみ)ごと…… 遊女である私が望んでも仕方がないことなのだと頭では理解出来ていても、置き去りにされた心があった。 あの時、花月に虚しくないかと問われたことは的をえていたのだ。 なんだ……花月って意外と良い奴だったんだ。 心底ホッとしていると手首に違和感を感じ、見てみると両手が腰紐(こしひも)で縛られていた。 へっ……? 「小春の一番敏感なのはど〜こだ?」 へっ…何?何が? わっる〜い顔をした花月が、10本の指を虫のようにウニョウニョと動かして私に迫ってきた。 「お金が用意出来るまでは指一本触れないんじゃなかったの?!」 「ヤラシイことに関してはな。でもこれは別。」 花月は両脇の下に開く身八つ口(みやつぐち)からその手を忍ばせると、脇腹をくすぐり始めた。 「なっ…止め、こ、こしょばい!」 「おおっいいねえその表情!次はここ〜。」 縛られて抵抗出来ないのをいいことに、脇の下やら背中やら首やらをこれでもかとくすぐられた。 笑いすぎて苦しい!お願いだから止めろってえ!! 「あれ?小春って思ったより胸あるな。それでも小さいことには変わらんが……」 「どこ掴んでんのよ!そんなこといちいち言わなくていい!!」 「俺はこれくらい小ぶりの方が好きだぜ?」 「うるさいったら!!」 前言撤回!やっぱこいつ最っ悪!! 朝起きたら花月の姿が見当たらなかった。 腹筋が痛い……笑いすぎたせいだ。 あの野郎…好き放題触りまくりやがって…… 用でも足しているのかなと二階の(かわや)の前までいったのだが誰もいなかった。 階段そばにある遣手部屋からお園さんが出てきて、歌山様なら先程帰られたと教えてくれた。 お園さんは私を叩き起こそうとしたらしいが、寝かしといてやってくれと言われたらしい。 「主さんが起きたのに寝てるだなんて楼主からの折檻(せっかん)もんよ?まあ小春は初めてやったしえらい激しかったようやから、今回だけは見逃してあげるでありんす。」 私の叫び声が見世中に響いていたらしい。 くすぐられていただけですとはとても言えない……
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