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最近はあまりにヒマなので、お園さんがいる遣手部屋にお邪魔していた。
「歌山様に文でも書いたらどうでありんすか?」
「お腹が減りましたって?」
「そんな色気のないのを書いてどうするでありんすか!」
「お園さんさあ、無理して廓語使わなくてもよくない?私、土佐弁しゃべるお園さん好きだよ?」
やかましいわと部屋から追い出されてしまった。
お園さんが言うように手紙でも書いてみようかな……でも私、この手の文章を考えるのが苦手だ。
指南してもらおうと久しぶりに高尾姉さんの部屋を訪れた。
「あら小春やない。遊びに来てくれたん?」
そう言って高尾姉さんはうんしょと布団から起き上がった。
こんな昼間に床に伏せてるだなんて…気分が優れないのだろうか。
「手紙の内容を考えるのを手伝ってもらおうと思ったんですけど、出直します。」
「昨日少し飲み過ぎただけやしもう大丈夫よ。それって歌山様への?楽しそうやない。一緒に考えよ。」
顔が青白いし鼻声なのも気になる。とても回復したようには見えないのだけれど……
わっちを頼ってくれるやなんて嬉しいわあと言うので甘えることにした。
遊女が客に文を送るのはよくあることである。
客は遊女からの熱烈な思いを文章から感じ取り、自分だけが特別な存在なのだと酔いしれるのである。
特に高尾姉さんが書く恋文は、相手の心をくすぐるような気の利いた内容を書けるだけでなく、字の綺麗さも抜群だった。
「放ったらかしにされて何を考えてるんだかさ──っぱり分かりません。」
「一人の夜は貴方のことをもっと知りたいと胸が焦がれます。に変えようか?」
「このままではお腹が減って死にそうです。」
「貴方に会えなくて食事も喉を通りません。」
「散々振り回してくれてんじゃねえ、ど阿呆が。」
「……小春。果たし状じゃないんやからね?」
高尾姉さんが書き起こしてくれた見本で何度も清書を繰り返し、花月の元へと送った。
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