鐘の音

2/3
前へ
/34ページ
次へ
しばらくすると白髪の老君(ろうくん)が歩いて来るのが格子の間から見えた。 (かみしも)の身なりからして武士だ。 二人の家臣が付いていることから役職もかなり高いことが伺える。 端正な顔立ちからして昔はさぞかしモテていただろう…… 女の扱いにも慣れていそうだし、最初の相手にはうってつけかも知れない。 姉さん達が我先にと老君に向かって煙管を差し出した。 張見世では遊女が客の気を引くために自分が吸い付けた煙管を格子先から差し出したりする。 客がそれを受け取れば、遊女の誘いに応じたという意思表示なのだ。 煙でむせてしまうから自分では吸わないけれど、煙管なら私だって用意してきた。 負けてられるかと差し出そうとしたら、手が滑って格子の隙間からぽーんと勢いよく飛んでいった。 し、しまった……やらかした。 驚いた顔をした老君とバッチリと目が合い、思わずグリンと顔を逸らした。 老君は腰をかがめてその煙管を拾い上げると、末席に座る私の元へとやってきた。 顔を真っ赤にして恥ずかしがってる場合じゃない。 着物の(たもと)で顔を隠しつつも、にっこりと微笑みながらお礼を言った。 「可愛らしいお嬢さんだ。今晩、この爺のお相手をしてもらえるかな?」 えっ……わ、私でいいの? 災い転じて福となすということわざが頭に浮かんだ。 「では姉さん方、お先にい。」 悔しそうな姉さん達を後目に張見世から一抜けした。 ざまあみろってんだ。えっへん! とはいうものの、なんせ初めてだ。 実は経験が無いと素直に打ち明けた方がいいのか、黙って手慣れた風に装った方がいいのか…… もんもんと悩んで答えの出ぬまま大部屋に着くと、老君にいきなり押し倒された。 「い、嫌やわあ主さん。そう慌てないで……」 品の良い見た目とは違ってかなり乱暴だ。 お酒でも飲みませんかと聞いているのに、私の体をまさぐる手が止まらない。 興奮した息を吐きながら口吸(キス)をされてとても不快な感情が込み上がってきた。 それは花月の触れるだけの優しいものとは違う……ねっとりと絡みつく舌使いが気持ち悪くて、痛いくらいに歯がガチガチと当たる自分よがりなものだった。 老君は口の中をひとしきり舐め回すと、今度は私の両足をガっと開けて顔を突っ込み、またぐらに吸い付こうとしてきた。 思わず、眉間に蹴りを入れてしまった。 力加減を全くしなかったのでメリっとくい込んだ老君は壁際まで吹っ飛んだ。 これはやり過ぎたかも知れないっ。 「わわ、ゴメンなさいっ!」 「このようにされるのもまた一興……なかなかの蹴りですな。」 まさかのノーダメージ! 老君は立ち上がるとおもむろに下の(はかま)を脱ぎ捨て、反り立つ逸物(いちもつ)を見せてきた。 デ、デカい…デカ過ぎる……… かなりのお年を召しているのになんでこんなにギンギンなの?もっとフニャってるもんなんじゃないのっ? こんなの、絶対入んないっ!! 「おそ…お薗さん!!」 遣手部屋にいるお薗さんに助けを求めようとしたら、髪の毛を掴まれてうつ伏せに組み伏せられた。 口を布団に押し付けられて声が出せないっ……
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加