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─────────私の夢………
この門をくぐれば地獄が待っている。
私は幼いながらに理解していた。この吉原がどういうところなのかを……
あの日、花のように微笑んでくれた高尾姉さんが私の心に明かりを灯してくれた。
ここで生き抜く道筋を教えてくれたんだ。
妊娠をしてお腹を掻き回されて無理やり堕ろされる者。
体がボロボロになってゴミのように道端に捨てられる者。
意に沿わぬ身請話が決まり自害する者。
当たり前のように死んでいく遊女達………
何人もの不幸な遊女を見る度に、いつか私もああなるんじゃないかと恐怖で足元をすくわれそうになった。
花魁になれば叶うと思った。
高尾姉さんのようになれば………
「高尾姉さんは年季が明けたら好きな人と一緒に暮らすはずだったの……」
でも高尾姉さんでさえ叶わなかった。
最期の炎に包まれていく姿が頭から離れない……
花魁になれれば、この生き地獄から抜け出せると信じていたのに……
「もう……どうしたらいいのかが分からない……」
燃えてしまった。
何もかも…全部────────……
「小春の夢は花魁になることじゃないだろ?」
静かな口調で諭すように、花月はもう一度繰り返した。
「小春、おまえの夢はなんだ?」
私はただ──────────……
「……幸せになりたい……」
……────────幸せになりたかったんだ。
言葉にしたとたん、大粒の涙がポロリと頬をつたった。
普通に恋をして、好きな人と結婚して子供を産む……そんな人並の幸せが欲しかった。
でもそれは、この吉原に売られた時点で決して叶うことのない夢だったんだ。
私は前を向いていたんじゃない。
現実から……
目を逸らしていただけだったんだ──────……
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