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知らせを聞いた高尾姉さんは、葵ちゃんが苦しんでいたことに気付いてあげれなかったことを悔やんだ。
「小春は悩みがあるならわっちに言うてな。誰かに聞いてもらうだけでも、楽になることはあるから……」
そう言って力なく微笑んだ。
この吉原で出来ることなんて限られている。
でも高尾姉さんなら、その身を削ってでも葵ちゃんに出来うる限りのことをしてあげただろう……
どんなに辛い日でも遊女に休みはない。
─────暮れ六つ。
今日もまた、大行灯の妖艶な灯りが吉原にともった。
葵ちゃんの水揚げの相手も日にちもそっくり私が受け継ぐことに決まった。
あんな狸親父なんて嫌だと言いかけたが、止めた。
水揚げの日まであと数日と迫ってきたある日、女衒に連れられて新しい女の子が稲本屋へとやってきた。
随分と小さい…5歳くらいだろうか。
最初は泣いていたが、出されたご飯をペロッと平らげた。
きっと吉原へ行けば毎日白いおまんまが食べられるよと言われて連れてこられたんだろう……
そんなのは最初だけで直ぐに空腹に絶えなければならない日々がやってくる。
この子はこれから花魁の世話をしながら芸事や教養を教え込まれ、17になったら遊女として働かされるのだ。
やるせない気持ちになり通りを見ると、別の女衒が14歳くらいの少女を連れて歩いていた。
あの子は歳が行き過ぎている……
きっと吉原でも格下の妓楼に売られ、すぐに客を取らされることになるだろう。
そうなると花魁になれるという道はない。
借金まみれにされてここを出ていくこともままならず、体がボロボロになろうが死ぬまで働かされるのだ。
「小春、高尾姉さんに新規の客の予約が入ったから身支度のお世話したげて。」
私に他人のことを気にかける余裕なんてない。
花魁のマネージャー役を務める番頭さんに言われて高尾姉さんの部屋へと向かった。
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