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大切なものを失くしても……
レドの家に一匹のカマキリが棲みついた。
10月の中旬から鉢植えの影に潜んでいたカマキリは、水をやると驚いて葉陰から飛び出し、両鎌を上げてレドを威嚇した。
🐰「おおっ! ファイティングポーズだ」
レドはあんまり虫は隙じゃないけれど、自分よりうんと大きなレドに臆することなく向かってくるカマキリは何となくかっこいい気がした。
数日経つとカマキリは、レドの足音を聞いて植物の上に上るようになった。
レドがカマキリのすぐ近くにホースを持っていっても知らん顔をしている。カマキリにかからないように水やりを終えると、スッと葉陰に潜り緑の葉と同化した。
🐰「すごいね、カマちゃん。頭いいんだね」
声をかけると、にゅっと葉陰から顔を出したカマキリが、どんな名前だよとでも言うように迷惑そうにレドを見上る。
🐰「だって、虫に名前なんかつけたことないんだもん。カーマじゃホームセンターになっちゃうし、カーキは色でしょ、マキちゃんはどう? あっ、引っ込んじゃった」
それ以上名前を考えるのが面倒なので、レドはカマキリをカマちゃんと呼ぶことにした。
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