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ダン、登山に憧れる
ダンは、最近一人キャンプに行きたいと言い出し、色々揃え始めました。
そして、山の雑誌を何冊か買って、コースなどを調べています。
ダンは、レドに写真を見せながら言いました。
「このコースなら1時間歩くだけで済むから、俺でも行けると思うんだ。この写真の女の子だって登っているし、初心者コースとしていいんじゃないかな」
「まずはお散歩に行くときに、もう少し速度落としてよとか、ちょっと休憩していこうと言わないこと。普段からトレーニングしなくっちゃね」
「そうだな。じゃあためになる映画でも見るか」
なぜ、映画?と思ったのですが、レドは小説の締めきりが迫っていて、ラストにもう一山作ろうとして、どうするか必死で考えている最中に話しかけられたため、おしゃべりが終わってほっとしました。
そそくさとダンのいるテレビの部屋を出て、隣のリビングルームを通り、リビングに向かい合うダイニングルームのテーブルで続きを書き始めました。
ダンの見た映画は、「エベレスト神々の領域」というタイトルで、阿部寛扮する登山家が、前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑んだものでした。
レドの小説はファンタジーで、北欧神話の神オーディンが突きつける難題に、銀と金の支配者、翼の乙女、そしてワルキューレの四人が立ち向かうシーンに差し掛かっていました。
どうやって神の挑戦に打ち勝つか、ああでもない、こうでもないと書いては消して考えているときに、映画もラストにさしかかり、どうやら遭難している模様。
レドの小説では、金の支配者の神獣のライオンが、銀の支配者に襲い掛かかり、銀の支配者がライオンの前足をスパッと切るシーンになりました。
するとタイミングを計ったように、阿部寛の怨念を込めたような声が聞えてきました。
『足がだめなら、這っていけ』
🐰「ん?(;'∀') いや、這わないし……」
とにかく続きを書くんだ。頭が疲れてきたけれど、手さえうごかせば何とか文章がつづれると、憑りつかれたようにキーを連打します。手荒れの指が痛いけど、頑張れ、頑張れ!
すると、また阿部寛の必死の声が……
『足が駄目なら、手を使え』
🐰「いや、元から文章に足は関係ないし……(; ・`д・´)」
映画はクライマックスの真っ最中!だんだん音が大きくなってくるので、レドも考えている文章をかき消されまいと、ぶつぶつ口に出して確認します。
今度は阿部寛が押し殺した声で、でも音量はめちゃくちゃ大きいままに呟きます。
『手がだめなら、口を使え』
ぶつぶつ文章を読んでいた口を閉じたレド。心の中で突っ込みます。
🐰「君は私の行動を見ているの?」
阿部寛が答えます。
「口がだめなら、目で見ろ」
🐰「うるさ~~い!書けないじゃん!」
結局登山家は、雪山にお隠れになりました。
ダンが登山に憧れているのは、映画のチョイスでよ~く分かったけれど、目でみるより足を使った方がいいのにと、レドは思ったのでした。
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