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レドは、箱にカマちゃんを入れてラップをかけてから、階下に連れていった。
カマキリは何を食べるのだろう?
自分の朝食もそっちのけで、レドがスマホで調べると、ヨーグルトや肉と書いてある。最初はカマちゃんの傍に少量のヨーグルトを置いてみたが、カマちゃんは微動だにしない。
早くしないと死んでしまう。レドは割りばしの先にヨーグルトをつけ、カマちゃんの口元に持って行った。
カマちゃんは動かない。
レドは食べてよ~と言いながら、カマちゃんの口元にヨーグルトを擦りつけ、ほんの少しカマちゃんが口を開けたのを見計らって、ヨーグルトを押し込んだ。
口が動いた! 食べているのだろうか? レドは息を殺して成り行きを見守った。
家事をしていたとき、がさごそと箱の中で物音がした。駆けつけるとカマちゃんが動いている。ヨーグルトが効いたのかもしれない。
レドは薄切り肉を湯がいて小さく切り、割りばしで摘まんでカマちゃんの目の前で揺らした。
🐰「獲物だよ。カマちゃん捕まえて」
言葉が通じたのか、カマちゃんが目にもとまらぬ速さで鎌を振り、割りばしをガッと挟んで止める。
🐰「おおっ! カマキリの本領発揮!」
喜んだ甲斐もなく、カマちゃんは肉をじっと見つめただけで食べなかった。
そんな日が二日ほど続き、朝起きると真っ先に箱をのぞいては、まだカマちゃんが生きているのを知って安心する。
部屋の中は暖かいから、越冬できるかもしれない。
心にほんの少し希望が灯った。
今日は朝は寒いけれど、日中は気温が上がるらしい。
あれやこれやと用事を済ませ、さて、そろそろヨーグルトをあげようと箱に近づくと、カマちゃんは横向きに倒れていた。
思わず脚を確認すると、まだ等間隔に開いている。虫の死骸は脚が折りたたまれ、中央に寄るのだ。大丈夫。転んだだけだ。
レドはビニール手袋をはめた手で、カマちゃんを掴み元に戻す。カマちゃんは挨拶をしなかった。だらんと床にうつぶせになって寝転んでいるようなカマちゃんを見るのが忍びなくて、レドは他の部屋に行こうとした。
するとカサカサと音がする。視界の端にカマちゃんが起き上がるのが見えた。カマちゃんは見えない何かと戦っているように、上体を逸らしてファイティングポーズだを取る。勇ましい姿だった。
時間が止まったような静けさ。カマちゃんはポーズを崩さない。
さっきまで伸びていたのが嘘のように、隙をみせずに前方を睨んでいる。
まさか、命を奪いにやってきたものに立ち向かっているのだろうか?
背筋が寒くなった。
カマちゃんは、そのまま息を引き取った。
君は勇敢だった。最期の最期まで、戦士だった。
身体の大きさや運命などに関係なく、立ち向かう姿は尊かった。
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