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両手が塞がっているのだろう。ノックする音の代わりに元気の良い声がドア一枚を通して響いた。先週といい、今日といい、気の利く生徒がいたものだ。
「おー、サンキュ」
紙束を受け取ろうと内開きのドアを開けると、一人の男子生徒が現れた。その顔に見覚えがある。
「ん……? お前、先週も届けてくれたよな」
途端、彼は如何にも健康的な顔を輝かせた。パアッと擬音が付きそうだ。
「覚えててくれたんだ」
少年の眩しさのあまり物理的な眩しさまで感じ、高村は目を細めた。
「確か……菊田、だったか」
「そそ、俺菊田。野球部の」
にっと白い歯を見せた笑顔に合点がいく。
「あ。そうかあれだ。生徒会新聞にインタビューか何かで顔写真載ってたな。でかでかと見出しに名前が出てたから覚えたんだった」
「マジかよ嬉しっ」
パタパタと尻尾を振る勢いで喜ぶ様に気圧され、無意識に準備室へ招き入れてしまう。まあ、お駄賃に飴玉一つくらいやってもいいかも知れないが。
「入っていいの?」と言葉とは裏腹に、菊田は無邪気に狭い室内を見回した。
「あっ、パソコンある。職員室にはないのに」
「何で知ってるんだよ」
「この前見たから。職員室に行ったらたかむーいなかったからさ、捜してたら他の先生がこっちにいるって教えてくれて。今日はもうわかってっから直行だったけど」
「そりゃ手間かけたな。ご苦労さん」
「へへ、いいのいいの。俺が適任てやつだから」
目の前で照れくさそうに鼻の頭を掻く少年はやはり眩しい。人種が、いや、原子から違う。
「何だその適任って」
レポートを受け取りながら尋ねれば、菊田はうんと頷いた。
「俺がたかむー好きだから」
「……はい?」
to be continued…
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