ラブストーリーが突然に

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──そうだ、もうすぐ中間試験ではないか。 一時間目の授業の準備(といっても教科書、名簿、マイチョークを用意するだけなのだが)をしながら、高村(たかむら)は人知れず顔を顰めた。 あと2週間か、と卓上のカレンダーを横目に立ち上がる。思ったより猶予はない。試験範囲の発表は一週間後。それまでにはある程度目処は立てておく事にしているのだ。 本来は範囲発表の後でも別に構わないのだが、他の科目の教員達の圧がある。まだ作っていないのか。さっさとしろ。すれ違う時の目がそう言っている。特に生物の亀井(かめい)は怖い。凄んだ美人の迫力をナメてはいけない。 「おはよー、たかむー」 ため息混じりに廊下に出て歩いていれば、二人組の女子生徒が気の抜けるような挨拶をして追い越して行く。 誰が言い出したのか、赴任した直後から生徒には“たかむー”と呼ばれ続けている。許可した覚えはないのだが、別に不快感があるわけでもなし、早々に定着してしまったらしいそのあだ名をわざわざどうこう言うのも面倒だ。まあいいかと放置した結果、今日“高村先生”と呼ばれる事は殆どなくなった。教頭に「教師と生徒なんですから、あまり友達のように接してばかりではいけません」と口酸っぱく言われても高村としては今更どうしようもないのである。 「おっはよたかむー、今日もマスクしてんね」 「息苦しくなんないの?」 今度は男子生徒のグループだ。小突き合いながらわらわらと高村を抜き去って行く。腕時計を確かめれば始業時間まであと一分。 「おい、もうチャイム鳴るぞ」 声を掛ければ騒ぎながら教室に雪崩れ込んだ。その後に続き、丁度スピーカーがチャイムのメロディを流し始める。 ──さて、仕事しますか。 コキリと首を鳴らし、マスクを顎下に下ろした。
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