ラブストーリーが突然に

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◇◇◇ 高村はよく社会科準備室にいる。 資料の詰まった本棚で圧迫感と閉塞感のダブルコンボな部屋だが、この通り机と椅子は揃っている。職員室のデスクに備えるべきパソコンをこちらに持ち込めば充分だ。 とはいえ、本来準備室はただの準備室であって書庫のようなもの。空調設備も貧弱で、夏はオーブン、冬は冷凍庫と化す。他に利用者がいないからと我が物顔で居座っても快適な場所ではない。 それでも冷暖房完備の職員室ではなくここにいるのは、単に人付き合いが面倒だからだ。それに、試験問題の作成等集中して作業する際に無音なのも都合がいい。 もっとも、今手元で進行している作業は一時間目から三時間目まで3クラスの生徒に実施した小テストの採点だ。特に集中すべき時でもないが、どうせ私物は殆どこちらにある。今週は職員会議もないため、明日の朝礼まで自分のデスクに帰る事はないだろう。申し訳程度に置いているクマのマスコットに用はない。 一問一答形式の問題が三つに、ちょっとした記述問題が一つ。5分で解かせた問題はさして難しいものでもなく、従って採点にも時間はそれほど取られない。40人×3クラス分を手早く合格と不合格に仕分け、名簿に点数を書き込んだ。 今回の補習組は全体で5人のみ。まずまずの出来だ。 ──しかし、また同じメンバーか。 バツ印の付いた名前を見、苦笑する。こういう事をすると必ず常連が出来る。今度は小さいペナルティでも付けてやろうか。 時計を見れば、四時間目終わりまで5分程。空きコマを利用したため、昼休みが丸々残っている。昼食を摂りながら問題作成に取り掛かるかと考え、鞄の中を漁った。ぬるくなったゼリー飲料を取り出しはたと気づく。 「しまった……」 一年生の宿題にしていたレポートを回収し忘れた。不覚にも、誰かに集めておけという指示すら出していない。やれやれ、先週と同じミスをするとは。前回は運良く届けてくれた生徒がいたが、柳の下のドジョウを待っているわけにもいかないだろう。 どっこいしょとじじくさい掛け声と共に立ち上がろうとした時である。 「たかむー、レポート持って来た」
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