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その後も2時間程度練習は続いたが、結局身が入らず、菊田は再三に渡って監督の雷を頂戴した。普段ない事なだけに、終いには熱でもあるのではないかと心配される始末だ。
そうして一人で帰途につこうとしながら、悶々と考えるのはやはり高村の事である。
取りつく島もなかった。マスクで隠された表情から動揺という動揺は読み取れなかったし、声の調子も普段と変わらなかった。そこから導き出せる答えは一通りしかない。「好きだ」と言った時、僅かに目を見開いたように見えたのは気のせいだったのだろうか。自分の願望がそう見せたのかも知れない。
客観的に考えて、言うべきではなかったのだ。
相手は教師、自分は一生徒。自分にとって高村が一人でも、高村からすれば大勢の生徒のうちの一人に過ぎない。そもそも男に想いを寄せられる事に対して抵抗がある可能性もある。そうでなくても立場という壁が高過ぎるのだ。まともに答えて貰えるわけがなかった。
だが。
──あんなあからさまに躱さなくてもいいじゃん。
それならいっそ拒絶してくれた方が幾らかマシだ。大体、普通は「お前の気持ちに答えてやる事は出来ない」ぐらいの台詞は言うのではないのか。それとも本当に伝わらなかったのか。そんなはずはない。
「くそ……どう考えてもアウトオブ眼中かよ」
不貞腐れたような気分で飴玉の個包を破る。大事に取っておこうと思っていたが、無性に噛み砕いてやりたくなった。
口の中に放り込めば、ソーダの味が味蕾に届く。ずっと握っていたせいで生温い。
飴玉がガリッと音をさせて割れるのと、学校の裏門をくぐったのとが同時である。
「おいおい、もうちょい味わえよ」
「えっ」
突如耳に入った声に振り向く。そして目を疑った。
「たかむー、」
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