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最終話
「俺……あなたの主様に会った事があるんです」
圭が……貴桐さんの主様に……。
「ああ、ジジイがお前の父親に会いに行ったんだろ。ジジイが表に出なくなったのは、死ぬ十年前くらいだ。お前の父親が一夜に術を使ったのもそのくらいの時期だった。そして塔が建ったのも同じ頃……これが偶然とは言えないだろう。生死を分ける程の強い力だ。ジジイが気づかないはずがない」
「……ええ」
「仮の主は、主と同等の力を持つ……そしてお前の父親は呪術医だ。理解出来ているなら……使えても不思議はない」
「だから……俺にやらせたんですね……」
「ああ。呪術医は、あり合わせの『材料』でブリコラージュする事が出来るブリコルール。それが……目に見えない『材料』であったとしても、継承者なら掴む事が出来るからな」
「干渉したんです。それが一夜に飛び込んだ……それを目にした者は奇跡だと、見様見真似で共有し始めた……分散してしまったその知識は、呪術医同士の対立を生み、肯定出来る思想に傾いた……」
「それが来贅の思念を呼び起こしちまった。来贅は呪術師を恨んでいる。だが、その呪術によって生き永らえた事は確かだ。呪術は信用しても呪術師は信用に値しない……医術と呪術を使う呪術医が、その生命を持続させる事が出来る最高権力者。捨ててしまっても、捨てきれなかった思いがあったのは来贅も同じだ」
貴桐さんは、長く息をつくと、圭に訊いた。
「圭……お前は、聞こえていたんじゃないか? だからお前は塔に入ったんだろう? その声を伝える為に」
「……そうですね。それが……」
……圭。
「父さんの最期の言葉だったから」
返すから……返してくれって……。
だから圭は……。
圭が塔に行くと決めた時の僕との会話。
『なあ…… 一夜。俺……行ってみようかな』
『行くって何処へ……?』
『あそこなら薬剤も機材も揃ってる。みんな苦労してるんだ。知識だって今以上に増やせるだろ。使えるものも多くなる。そしたら戻って来るからさ』
『圭……お前……』
『ああ。あの塔に……さ』
『お前の親を……お前の家を潰したところだろっ……! お前の家に伝わる呪法も、全て、あいつらが奪っていったんじゃないか……! そのせいでお前の親は……!』
『だからだよ、一夜。だから返してもらうんだ。返してもらって、俺がまた作るんだ。父さんが作った、俺の理想をね』
「……圭……」
込み上げる思いが、声を詰まらせた。
圭の父親が作った、圭の理想。
僕は……。
涙が溢れた。
僕を見る圭の目は、とても穏やかで、笑みを見せながら僕の髪に手を触れた。
「『大丈夫』一夜」
「……圭」
「どんな形であっても、どんな姿であっても、互いを知っている事がなかったとしても……必ず会う日が来るんだって。それが……『巡り合い』だから……と」
巡り合い……。
光の粒が弾けて舞う。
地へと落とし始める光の粒が、辺りを照らし出すように広がった。
その光の中に、来贅と綺流の姿が包まれて見えなくなった。
降り注ぐ月の光は、宿木という坏へと降り落ちる。
淡い光を注ぎ注ぎ。
やがて……。
やがて坏は満たされる。
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