沈む日

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 映画みたいにくじ引きがあって、俺は運良くそれにひっかかった。  だけど映画みたいに五十歳以上は選別からはじかれて、父親は地下シェルターに入ることが出来なかった。年寄りは殺してしまえなんて、昔話みたいだ。そして知恵が必要なときになって、困るんだ、きっと。  俺は母親と妹と三人で、暗いシェルターで二年過ごした。  シェルターはちゃんと空調も完備で、あの状況から考えれば、快適と言っても良かった。  地震とか台風とか、色んな被災者の様子をテレビで見たことがあるけれど、皆が体育館なんかに押し込められて、暑くて寒くてひもじい窮屈な思いをしているようだった。  それに比べれば、災害が分かっていて、ちゃんと準備されていたところに迎えられた俺たちは、よほど恵まれている。  動物もいる、植物もある。空気もある。食べ物も水もある。寝るところもある。  ただ、空だけがない。父さんがいない。  あの日から時計は止まったままだ。父さんにもらったアナログの時計はもう回転しない。  誰かに、動いていれば金になったのにな、と言われたが、売るわけがない。
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