沈む日

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「空が暗いね」  しっかりと手を繋いだ妹がつぶやいた。  それから、「空が赤いね」と囁くように続ける。  俺の手にすがりつくようにして、歩いている。  危ないから本当は住処にいてほしい。だけどずっとシェルターに押し込められて窮屈な生活をしていたのだから、それもかわいそうで、たまに一緒に散歩する。  空が赤い。あれは夕日の赤さだけじゃない。  燃えているんだ。どこかが。何の騒動も聞こえてこないから、きっとそんなに近くはないのだろう。ちょっとホッとする。  だけど、静かな道を歩いていると、時々降るように昔のことが頭に満ちる。朝学校に行って、先生に文句を言って、テストに悩んだ日々が。  ――地に満ちよ。  神様、そう言うなら、守ってくれればいいのに。満ちすぎて、今度は邪魔になったのか。  ――ああ、陽一のせいで、変な受け売りが思い浮かぶ。  そもそも、地球を守っていたオゾン層なんかを破り始めたのは人間だ。あれが隕石をどけてくれたわけもないだろうけど、だけど強烈な日の光から守ってくれるものを、共存していくべきものを裏切ってきたのは、人間なんだ。  沈んでいく夕日を見ていると、そういう気分になる。今日が終わる。明日もまた生きていけるだろうか。朝目覚めるのが当たり前でないと知ってしまった今では、一日の終わりは、ひどく心が静穏になる。
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