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そういう男なのだ。
「──どうしようシオリちゃん。俺、まだまだ遊び足りないんだけど、シオリちゃんのこと離してあげられないかも」
望む答えを返すまで続くことを示唆されるように小刻みに揺すられる。
どう答えようか、答えていいのか、というか何を求められているのか、よく考えたいのにできない。
その場しのぎの逃げを打とうと顔を逸らせば、男の手が逃がすまいと強引に頬を包んだ。
「ごめんね? 逃がせない」
無遠慮に私の中に入り込んだ次の瞬間に出たセリフが「まだまだ遊び足りない」で、ごめんともなんとも思ってない顔で逃げ道を塞ぐのだ。
この男は、そういう男なのだ。
*
どうやら私の顔は怖いらしい。
確かに昔から「怒ってる?」とよく聞かれるし、それが理由で彼氏にも振られた。本当はそれが理由じゃないかもしれないが、他に理由があってもショックなので考えるのをやめた。
怖くて結構。この顔のおかげで通勤時にぶつかってくるサラリーマンはいないし、初対面の人間も境界を見誤ってこない。快適だ。新人レジに並んでも店長が交代するし、面倒事は向こうから避けてくれるし……。快適だ。本当に。
快適だけれども、少し不便なこともある。
初対面で恐れられるがために人と仲良くなるまでに時間がかかるのだ、私は。
今日も同僚の子たちは何やら連れ立ってランチに行っているようだが、私は今日も一人でランチを食べ、食後のコーヒーを飲みながらポータブルゲームで鉄鉱石を集めている。
もしかして同僚とオシャレなランチ♪なんて都市伝説で、幻聴だったのではないかと思っている。そう思わないとショックを受けそうなのでそういうことにしている。
そういうものは雨や台風地震と同じ。自然の力はヒト一人にはどうしようも出来ない。
心の安寧のために私は「そういうものだ」と自然を受け入れるのだ。セルフケアばっちり。
ああ、そうだ。気を使わなくて良い昼休みを過ごせて楽だ。本当にそう思っている。本当だ。
ただ本音を……心の声に耳を傾けるならば、避けるのは面倒事だけで、人間関係は避けたいと思っていないから、ちょっと不便は感じているが、悲観はしていない。そういうものだから。
「──シオリちゃん、それ”アニ森”?」
セルフメンタルケア中に急に名前を呼ばれ飛び跳ねるように振り向くと、営業部の木場さんが少年のように瞳をキラキラさせながらこちらを見ていた。
「あ、き、あ、お疲れ様、です」
木場さん、お疲れ様です。どうしてここに?ここで会社の人と会ったことがなかったので驚いちゃいましたー。なんて。そう言いたかったのに言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消え……自分のコミュ力のなさに落ち込む。喋る前に「あ」を入れるのも恥ずかしい。製薬会社のCMかよ。あぁ家に帰りたい。
いつでもどこでも始まる自己反省会にややうなだれている私に木場さんは今日も人懐っこい顔で近づいて来た。なぜ距離を詰める。その場で止まってくれ。
「シオリちゃん、アニ森やってたのかー知らなかったなー、アニ森好きなの?」
流行ってるよね、と木場さんは自然に私のテーブルの向かいに腰かけた。
そう、”木場さん”。つまり私と木場さんは下の名前を呼び合う間柄ではないのだ。だというのに、この同期の木場という男は初手から私の下の名前を呼び、あたかも友達かのように自然に話しかけて、同じテーブルに腰掛けるのだ。怖すぎる。
私なんて学生時代でも下の名前やあだ名に移行するまでものすごく考え悩み決意を経て、やっと呼んでいいかの確認から入っていたというのに。木場さんは学生時代、先生もあだ名で呼んでいたに違いない。そして先生と中心的クラス選抜メンバーでキャイキャイさぞ楽しい青春を過ごしたに違いない。
「……いいえ、姪と、色々と協力して、、」
いえ、七歳の姪との共通の話題作りのためにやっているんですよー。小学生になると好みも変わって今までおもちゃやお菓子をプレゼントすれば仲良くなれてたのにそうもいかなくなっちゃってー。もうあっというまに成長しちゃってー。これから親に言えない悩みとか相談もだんだん増えていくじゃないですかー。だから、関係づくりというか、味方の大人は親だけじゃないんだぞ、というか。まぁ姪にモテたいだけなんですけどねー。
なーんて、そこまで説明する必要もないというか、話が長い。という心が中途半場に打ち消して片言の返答になる。
ああ、私ってば顔も怖けりゃコミュ力も貧困だ。家に帰りたい。お布団に還りたい。
「姪がいるの? へぇ~意外と面倒見がいいんだね! 何歳?」
「共通の趣味とかあったら一緒に遊べるし良いねー。シオリちゃん優しいね」
「七歳ってことは小学生かー。小学校の友達もやってる子多いのかな?」
そしてこの木場という男は営業という仕事が天職なんだろう。私のカタコトにも引かず、体を前のめりにして話を聞く姿勢をとっている。むちゃくちゃ話を振ってくれるが、そんなに興味をもたれてもうまく返せないのが申し訳ないというか、怖い。
木場さんはそれから昼休憩五分前まで熱心に話しかけてくれた。しかし私は足を組み、背もたれに背をつけ、腕を組んで、ニコリとも顔が動かないままボソボソと木場さんの問いに答えていた。一問一答状態だった。こういうところだよ、私。
快適な昼休憩に自分の至らなさを痛感させられたこの日を境に、この男は私の昼休憩にたびたび現れるようになった。
*
「シオリちゃん、見て見て。アニ森買ったよー、これおもしろいね!やり込んじゃって時間が溶けてくよ」
「え、岩って8回叩けるの?果物を食べて岩を砕くって小タヌキが教えてくれたから信じてたのにー、じゃあ俺ただの破壊神だ!?」
「シオリちゃん!この光ってる穴を掘るとお金が出てくるでしょ?もう一度そのお金を埋めたら”金のなる木”が育つって知ってた!?知ってたの!?なんだ、教えてよー!」
──シオリちゃん、シオリちゃん
あれから木場さんにはとても懐かれてしまった。
木場さんは週に2度ぐらいの頻度で喫茶店に現れ、一緒にアニ森をする。
お互い視線はアニ森に注がれているから、私も緊張せず普通に話せるようになった。アニ森ありがとう。
アニ森ごしだと緊張がとれて一問一答だったのが、ゆっくりとだけどちゃんと自分の話+質問もくっつけて発言することができた。どうやら私が木場さんを怖がっていたのは、相手を楽しませられない・望むものを返せないのが申し訳ないという気持ちから来ていたようだ。木場さんが私の返事に笑ってくれるとホッと安心するようになった頃。
≪シオリちゃん、シオリちゃん。今日の俺の島のカブ価450なんだけど来る?≫
と、同じような調子でメッセージが来た。
そう、連絡先まで交換してしまっている。もちろん私用の方だ。
そして今日は土曜日。休日である。休日に会社の人間から連絡が来るなんて都市伝説ではなかったのか。いや深くは考えない。そこはパンドラの箱だ。
同じオフィスの隣の席の同性とも未だ連絡先を交換していないというのに、このスピード感。
木場さんは回遊魚なのだろうか。生きるスピードが速すぎる。
休日に会社の人間と連絡をとるなんて、なんだかいけないことをしている気分だと謎の緊張感を持ちながら考える。
面倒臭さはあるものの、カブ価450はアツイ。私の島では見たことがないレベルである。
念のために説明するが、カブ価とはゲーム内の株取引のようなもので購入金額より高値で売ればとても儲かるシステムだ。
そして、カブはカブなので一週間で腐って価値が無くなってしまう。売れるのは土曜日の夜まで……つまり、今日の夜までに持ちカブを売り払わなければならないのだ。
儲かったからなんなの?という疑問は野暮だ。私は姪に良いところを見せるために真剣に島づくりに取り組んでいるのだ。
島に必要なのは金。現実でも仮想空間でも金がモノをいうのだ。世知辛い。
──背に腹は代えられない。木場さんの島でカブを売らせてもらおう。
≪ご連絡ありがとうございます。では、ぜひお邪魔させていただきます≫
じっくり熟考して返信をして、ふーっと一息ついたらなぜだか木場さんから電話が来た。
休日に会社の人間から連絡が来るなんて都市伝説では(二度目
えっ、えっ、と動揺のまま電話に出れば、通信の仕方がわからないからちょっと出てこれるか?とのことだった。
……休日に会社の人間と会うなんて都市伝(三度目
*
通信のやり方がわからないからとビデオ電話することになり、家にいることがバレ、それなら出てきてお茶でもしながら……と、トントン拍子に外で会うことになってしまった。距離感の詰め方がアニメやフィクションのソレである。
木場さんと関わると、なんだかリア充になった気分になるな……と意識が遠くなってしまう。
意外と近くに居住していたらしく、中間地点にあるファミレスに座っていると2分もしないうちに私服の木場さんが座った。隣に。
今まで向かい合っていたので横並びは初めての距離というか、近すぎるというか、ああ絶対緊張して殺人鬼みたいな顔になっちゃってる気がする!
と、焦っていたのは私だけで木場さんは挨拶も注文もそこそこにゲーム画面を見せてきて通信のやり方の教えを乞うた。
なんだか真剣な顔だったので、私も焦りは置いておいて島に迎えたり行ったり、やり取りを一通り見せた。
「──なるほど」
木場さんはところどころスマホでメモを取っている。真剣だ。そんなに通信したいのか。
届けられたコーヒーを飲み、スマホに何事かを真剣な顔で打ち込む木場さんを横目で見ながら今日も私は木材を集めていた。
数分の後、木場さんは電話だと席を立った。窓から見る限り、どうやら仕事の電話のようだった。
営業部は土日も仕事の電話が来るんだろうか。なら休日に私に連絡してきたのだって、変な意味は無かったんだろうな。となんだか少し恥ずかしくなった。
窓の外で電話をする木場さんは私に見せる人懐っこい顔では無く、なんだか仕事ができそうな顔で手帳に何かを書き込んでいる。そういう顔を見ると知らない人のようで不思議な感覚だ。
そういえば別れた元彼もこんな感じのギャップがあった。というか異性と休日に会うのなんて、その元彼以来である。なんと。久しぶりに元彼を思い出した。
私の性格上、なかなか人間関係が新陳代謝されないため元彼と別れてからも「異性」とか「恋人」のゾーンには元彼がずーーーーっと居座っていた。友人関係が深くて狭いのも考え物である。
そのゾーンにぐいぐい侵入してきたのが木場さんだ。
すっかり私の「異性」のゾーンには木場さんがいたようだ。そして「恋人」のゾーンはポッカリといなくなっている。それに気付くと寂しいような、時間が解決するとはこういうことなのかという気持ちになった。
これが諸行無常ってやつだろうか。
そうか、私の人間関係の「異性」カテゴリは木場さんが入ったのか、と改めて木場さんを見る。ベタだけど電話を持つ手が骨っぽくてエロいな、と変なことまで考えていると木場さんがスイッとこちらを見た。ビクッと派手に驚いてしまった。まさか変な目で見ていたのがバレてしまったんだろうか。
木場さんは仕事の出来そうな顔で口端だけ上げると、親指をグッと立ててサムズアップをこちらに向けてきた。
やましい妄想を誤魔化すように、私も同じくサムズアップで応答しておいた。「異性」というだけですぐそんな目で見られた日には木場さんもやっていられないだろう。これだから人間関係が狭い奴は。と反省会を開いた。
電話が終わったのか、スマホを胸ポケットにしまいながら戻ってきた木場さんが山は越えたと説明してくれた。
木場さんが頼んだコーヒーはすっかりぬるくなっているだろうけど飲むらしい。ミルクのカップを傾けた拍子に指が少し汚れたのが見えた。
「さっきの電話、取引先からでさ。取引先の部長のお孫さん、七歳。アニ森やってるんだって聞いてさ。部長にアニ森のやり方を教えたら感謝されちゃったよ。シオリちゃんのおかげで部長ともお孫さんとも仲良しになれたよ。ありがとね」
私側にあったお手拭きを木場さんの方に寄せた時に、木場さんの手が私の手を掴んだ。
「契約とれそう」
ニヤリ、と笑った笑顔は今までの人懐っこい表情とは違って、普通の男の人に見えた。
別にそれが怖かったとかそういう訳じゃなかったのだが、見たことなかった表情にビクッと驚いてしまって手を引いてしまった。
「アニ森がきっかけでシオリちゃんとも仲良くなれたしね。で、そのお祝い……は、気が早いから、契約を願って飲みに行こう。飲める?おなか減ってる?」
と、私の反応に何も思うところは無かったのかパッといつもの人懐っこい顔でドンドンと話しを進めていく木場さん。
急に手を握られたことに関して何か言った方がいいのか、手を引いたことを謝ればいいのか、飲みに行くって今から!? とか回遊魚のスピード感に戸惑っているうちに、木場さんオススメの食事処へ連れられ。
おなかいっぱい食べ、飲んで、呑んで、酔って、イイ気分のまま帰宅した。
*
「……ここ、私の家じゃない」
「俺ン家。シオリちゃん、家教えてくれないんだもん送れないよ」
そりゃそうでしょ、となぜか木場さんの家の玄関で靴を脱がされている。木場さんに。
あの骨ばったエロい手が足首を撫でながら靴を落としていく。そんなに撫でる必要ある?
「だって男の人に家を教えちゃいけないんですよ?」
「それで男の家に来てちゃ意味ないよね」
シオリちゃんは抜けてるんだからー、となぜか木場さんは私の腰を抱き電気のついていない部屋の中へとずんずん歩いて行く。暗くて見えないので木場さんに合わせて歩くしかない。
「慣れてる」
「そりゃ成人男性なので」
嗜み程度には、となぜか木場さんは私をベッドの上に座らせた。
「彼女に悪い」
「彼女はいないよ」
遊んでるけど、となぜか木場さんはシャツを脱いで放った。
「嘘だ」
「俺は嘘つかないよ」
言ってないことはあるかもしれないけど、となぜか木場さんは私のアクセサリーを取り外し始めた。
「帰る」
「じゃあ家教えてくれる?」
これさっきと会話がループしてるね、となぜか木場さんはバンザーイと私の洋服を脱がし始めた。
「襲う気なんだ」
「人聞きの悪いこと言わないの。これ着たままじゃ寝苦しいでしょ?」
じゃあなんで馬乗りで変なところを触ってるんですかね。と、口から出ていたのか木場さんは「ムードがないなぁ」とまたあの普通の男の人の顔で笑った。
「──でも酔ってるシオリちゃんはふにゃふにゃしてて可愛いね。普段も可愛いけど」
骨ばった手が背中に回り、ベッドの中心まで引き上げられた。ちゅ、ちゅ、と音を立てながら頬や首に軽いキスのような感覚がある。
意外と嫌じゃないことに驚いていると「イヤじゃない?」と木場さんが顔を覗き込んできた。
「イヤだって言ったら止めるの?」
「そりゃ止めるよ。当たり前でしょ」
と、木場さんの手がデニムから私の脚を抜いていく。まだ返事はしていないが、どうやらイヤがっていないと判断したようだ。
「なんでスルの?」
「したいから」
そりゃそうでしょ、という雰囲気で木場さんの手が下腹から脇腹をなぞり上げた。
「付き合ってないのにスルの?」
んっ、と鼻から空気が抜けた。感じていると思われたくなくて、感覚を逃がすように目を閉じた。
「んー。付き合ってなくても出来るけど、好きな人とした方が気持ちいいよ」
だから気持ちいいから大丈夫、と耳の近くで聞こえた。
元彼と同じこと言ってる、と短く返事をすると「この場面で他の男の話されるとわかってても妬いちゃうなー」と軽い調子でまた返ってきた。
「さっき、まだ元彼と会ってるって言ってたけど元彼ともスルの?」
「会ってるって言っても、もう3か月は会ってな、んんっ」
微妙に答えをずらしたことを咎めるように少し首をかじられた気がする。
「元彼とスルの、気持ちよかった?」
「この場面で他の男の話を聞くの、そういう趣味なの?」
今度は喉の奥で笑うような声が近くで聞こえた。
それからはもう声を抑えるのに必死で変な問答をしている場合では無かった。
木場さんの舌がブラの縁をなぞるように動くと、快感を得られると知っている部分がブラの中で押しつぶされているのがわかった。
今までお約束のように触られていたから脱がされないとなんだか変な感じだ。
モゾリと動くと木場さんがまた喉の奥で笑った。
「あぁ、苦しい?外そうか?」
かすれて囁くような声にビクリと体が揺れた拍子に目を開け木場さんを睨む。
「あー、ほんとにシオリちゃんは可愛いね」
木場さんはたまらないといった風にクスクス笑いながら私の背に手を入れた。
「可愛くなんてないです」
可愛いと言われて、可愛くないですと返すところが本当に私の可愛くないところだ。
本当のところなんてどうでもいいと、ありがとうーとか軽い調子で返して流せばいいのに
相手の気持ちより、私は自分のことを可愛いと思っていないと予防線を張らずにはいられないのだ。
「そういうところが本当に可愛く見えるんだよ。俺にはね」
「変なこと言わ、んぅっ」
ブラをとられ、あの骨ばった指が立ち上がっていた芽を弾いた。
「逃げたり予防線張られると壊したくなっちゃうからさ、俺みたいなのに気を付けて?」
シオリちゃんは抜けてるんだから、すぐ食べられちゃうよ。と木場さんは言った。
木場さんの手が脇腹を通り、腰骨からお尻にかけて肌に沿うように下りていく。
手が中心に来た時にはもう自分でもわかるぐらいに溶けきっていた。
「気持ちいい?」
わかりきったことをあえて聞いてくる木場さんは意地悪だ。
私の答えを待たず反応する場所を探すような指の動きは止まらない。
「ふぅ……っ、い、じわる。そんな感じじゃなかったくせに……っ」
「こんな感じも好きでしょ?気持ちよさそうだもんな」
本当に意地悪だ。
木場さんは私の良いところを探しながら上の方に手を伸ばし、何かを探している。きっと避妊具だろう。ちゃんと避妊するつもりがあるようでホッとした。
目の前にさらされた木場さんの胸を引き寄せるように腕を回し、舐めて仕返しをする。
「こら」
くすぐったかったようで体をよじった拍子に私の中に埋まっていた手が抜けた。
木場さんが体を起こす動きに合わせて私も体を起こし、控えめな乳首に舌を這わせた。
元彼はこれを喜んだけど、木場さんはくすぐったいだけらしい。なら首はどうだろう、と膝を立てて首筋を舐め上げる。
こちらは感じるようで動きが一瞬止まり、頭を撫でられた。耳を愛撫しているとゴムをつけようとする手が再開した。
その手より先に木場さんのモノを掴む。
ピクピク動くモノをゆるゆると撫でながら体を離し、手の中にあるモノにちゅっと軽くキスを落とし木場さんを見上げた。
「──可愛いね?」
木場さんは腕で口元を隠しているが目が離せないのか、ものすごく真剣な目で見下している。
意地悪された仕返しのつもりでやっているので反応がないのは困るが、止められないならいいかと今度はあむと口の中に招きいれる。
口におさまりそうにもなかったので、溜めた唾液をまぶすように手を上下にさせながら舌をれーと出して割れ目をチロチロと舐める。
どこが気持ちいいのか反応を見逃すまいと木場さんを見上げるが、木場さんは先ほどから固まったままだ。壊れたのだろうか。
「……気持ちいい?」
なんだか不安になってきて、さっきの木場さんと同じことを聞いてしまった。
私のセリフは本心からの確認なんだが。
もしかして私の顔が怖すぎで大切なモノを食べられそうな恐怖で固まってしまったんだろうか。
不安でキュイっと眉が下がった次の瞬間、ぐいっと肩を押されてひっくり返った。
「元彼殺したい」
えっ?
なんて物騒な、と反応する前に歯が当たる勢いでキスが来て、舌まで入ってきた。
食べられてしまいそうな勢いに翻弄されて息も絶え絶えになりそうな時。
ぐちゅり、と熱いモノが押し込まれた。
んー!んー!と肩を叩こうが唇は離れず、無遠慮に割り入ったものは私の奥に陣取った。
もう奥は無いというのに、もっと入り込もうと腰を押し付けられグリグリと揺すられると生理的な涙が出ていた。
ぷはっ、と唇が解放されると木場さんは息を乱しながら私の肩口に顔を伏せた。
「すっげぇ気持ちいい」
恥ずかしそうな声色でそう聞こえたと思ったら、「それはよかった」だとか「好きな人とするから気持ちいいんだっけ?」だとか返事をさせないつもりとしか思えない律動が始まった。
そして冒頭に戻る。
コミュ力の貧困な私でも……貧困だからそう感じるのか?
木場さんはもしかしたら私のことが好きなのかもしれない。
聞くたびにうやむやにされるし、意地でも「好き」だとか「付き合う」という話をして来ない。
私も勘違いだったら怖いので言わない。でもお互いスルのは「気持ちい」と思っている。
すっかり私の「異性」で「恋人?」のゾーンには木場さんが居座っている。
というか、他の人なんていないのに入ってこさせないように木場さんが陣地とりをしている。なぜだ。よくわからない男だ。しかし木場さんという人間はそういう人なんだろう。
木場さんと付き合っているわけでもなんでもないので逃げるもなにもないのだが、木場さんは私を捕まえるのに忙しいらしく遊ぶ時間がないとボヤくまであと3か月。
もういっそ法で縛るか、と木場さんがボヤくまであと────
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