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私は別に、社交的なタイプではないんだと思う。そりゃあ挨拶くらいは自分からするし、事務的な社交辞令やお世辞も言えるけども。全く見知らぬ相手に臆せず話かけたりまして連れ出したりなんて出来ない。でもそれは"普通"のことだろう。そんなことが出来るならそいつは中々の"変人"だと思──
「ご注文はお決まりですか?オススメはカフェオレと…少しお時間頂ければこちらのラテアートも可能ですよ?」
前言撤回。"変人"。断言していい。
そもそも私、何か飲むなんて言ってないんですけども。しかしそうもいかない、何故ならここは紛れもなく"喫茶店"だからだ。
▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
「嬉しいですよ、"後輩"さん。何処までも奥深い哲学の世界へようこそ!」
「えっ…まさか、貴方は」
「積もる話は"上"でしましょう?歓迎しますよ」
ニコニコ穏やかに笑ってはいるが、この御仁、中々"圧"が強い。何だ"上"って…?いやそれよりも──
「あ、これとこの本お願いします」
この状況で買い物!?!?
しかも1冊2冊の話ではない。さっきは(衝撃で)気付かなかったが左腕にはかなりの本が抱えられていたようだ。しかもあの時私も選んだ哲学書も山を形成する一助を担っている。さらば数少ない資料(候補)……と思ったその時、その人はおもむろに私に本を差し出す。
「はい、これ。」
「えっ?どういう……」
「この本、差し上げますよ。僕の奢りです。」
「えっ!?いやそういう訳には!」
「いいんですよ、君は数少ない僕の"後輩"なんですから。」
あくまで穏やかな笑みは崩さないがやっぱり押しが強い。しかし私だって見知らぬ相手からいきなり買おうと思っていた物を奢りだと言われて受け取れる程厚かましくはないつもりだ。
「流石に初対面の方からこんな高価な物頂けません…!」
「珍しいなぁ、僕の知る哲学専攻なら皆1も2もなく貰っていくのに」
心底不思議そうな顔をしているが哲学専攻のモラルはどうなっているんだ。御触れよ…何故私の元まで回って来なかった……
「あ、じゃあ」
さも名案かのような声で彼は言う。
「その本の感想、僕に聞かせてください!それでお代ってことで」
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そして私は今、本屋の"上"こと雑居ビルの2階にある喫茶店に連行され現在に至ります。どうしてこんなことに……
件の青年は『ちょっと準備してくるので』と言い残しどこかへ消えた。私の行き場はどうなるんですか。しかし本をテーブルに置いてそのまま帰るのも多少気が引ける。そもそも感想なんて、私はレポート資料に使えればそれでいいのだ、そこまで深く読み込む必要も──などと考えていたその時。
「お待たせしました」
先程の服装から一転、ギャルソン服に着替えた青年が戻ってくる。180近いであろう身長と細身のスタイルに良く似合っているが……
「ご注文はお決まりですか?オススメはカフェオレと…少しお時間頂ければこちらのラテアートも可能ですよ?」
「あの、どういうことなんですか?というかここは……」
「あ!メニューお出しするの忘れてましたね」
「そうじゃなくて!!あの…まず貴方は……?」
「ああ、そうですね」
青年が居住まいを正す。
「僕は波方裕澄と申します。この喫茶店"オフィス"でマスターを務める、王種大学哲学科の卒業生。つまり、君の先輩にあたります。」
穏やかな笑みの活字中毒。それは噂に違わぬ──いや、それ以上の──"変人"だった。
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