不始末

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 はじめてできた彼氏とは大学の喫煙所で知り合った。彼はいつも灰皿から一番遠い隅で、ハイライトかラッキーストライクをフィルターに火がかすめるくらいまで時間をかけて吸っていた。毎回おなじ色のプルダウンパーカーを着て、たばこ一本で下世話な与太話に花をさかせる連中を死んだような眼で見ていた。晴れの日も雨の日も、必ず3限終わりにここに来て、シケモクを生み出すのがまるで義務かのようにただ無心で副流煙を吐いていた。  その日も同じように彼は喫煙所にいた。ただ今日は補講日で基本的に講義はない。したがって普段ここにたむろしている大嫌いな連中もいなかった。喫煙所に入ると彼だけが当たり前のようにそこにいて、しとしとと降り続く雨の雫を眺めていた。じめじめした6月特有の湿気の中で、まるで人類が滅びた後のような清らかな絶望が、のっぺりとここにははびこっていた。 「……すみません、火もらえますか?」  そんな中でそう尋ねると、彼は快く承諾した。口先に吸いかけのハイライトを咥えて、ポケットからライターを取り出す。 「ども」 「うす」  呼吸のような存在感のないやり取りが、キャンパス内で最も白けた場所に流れる。
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