不始末

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 まだ暑さの残る9月の深夜、僕は恭人の部屋で彼を待っていた。いつものように合鍵で部屋に入り、冷蔵庫から氷結とストロングゼロを拝借してベッドの上でテレビをぼんやりと眺めた。恭人は今日も居酒屋のバイトだ。あいつが帰ってくるまでまだ一時間ちょっとある。  いつもならこのまま寝てしまうのだが、今日はなぜか目が冴えていた。恭人に真実を明かす決心がついたからかもしれない。今日は下着まで女物でそろえてきた。自分の恋人がまさか男で、しかも小学時代にいじめていた生徒だなんて、恭人は夢にも思わないだろう。僕は今まで感じたことのない期待と興奮で、体中すべての血液が熱くなって全身をめぐっているような気がした。  そこでふと、テレビの横に置かれた本棚が目についた。10冊ちょっとの少ない書籍に混じって中学校の卒業アルバムが置かれている。僕の人生を散々壊しておいて、恭人は中学生活を謳歌していたに違いない。怒りと興味、そして少量のアルコールに僕は後押しされ、気づいた時には卒業アルバムを手にとっていた。血眼になってページをめくり、汐留恭人の名前を探す。  アルバムの中には黒子だった同級生たちの名前もあった。でもそれらはすべて僕にとって、ただの文字の羅列でしかない。汐留恭人の四文字だけが意味を持つ、僕の全てだった。 「あった、あったぞ」  思わず声がでた。僕は3組のページに恭人の姿を見つけた。小学校のころと違って威圧感がなく、身長も周りの男子に追いつかれたせいか、今のイメージと大して変わらない。どちらかと言えば地味で大人しい生徒、写真からはそんな印象を受ける。それどころか、なぜかあの悪を吸い込んだ瞳に生気を全く感じない。その理由を僕はアルバムの最後のページで図らずも知ることになる。 「……なんだよ、これ」
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