不始末

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 恭人は出不精で、授業とバイト以外はほとんど家にいるような子だった。煙草とコーヒーと少量の胡桃で体ができていた。欲望に忠実で、寝たいときは寝て、食べたいときは食べる。コンビニでよく納豆巻きを買ってきては、それを肴にストロングゼロを飲んでいた。その一見対極に見える組み合わせに、 「なに、健康に気を使ってるの?」 と尋ねると 「んなわけ、好きだから食ってんだよ」 と少し面倒そうに言われた。なるほど、好きなものを好きなだけ楽しむか。恭人の生き方は極力省エネだが、合理的なようにも思えた。彼は週5日、居酒屋でアルバイトして、そのままワンルームのアパートに帰ってはスマホを覗きながら寝落ちしていた。そんな姿からは学生特有の浮かれた感じも、将来への夢や希望といったキラキラしたものは何も伺えなかった。でも、彼はそれで満足気だった。恭人は今の快楽にすべてを捧げていたのだ。  付き合い出したのはそれからしばらくしてからで、お互いに友達もほとんどいなかったので、周りからちやほやされることもなかった。ただ二人で授業を受けて、煙草を吸って、時間があれば飯でも食べて、それだけだった。それでも少しずつ省エネだった恭人の時間を、二人の時間にすることができはじめていた。やがて西日が強くなったころ、恭人は自分から「秤屋琴(はかりやこと)」を求めるようになっていった。  もし「琴」が恭人のすべてになったとしたら、それを滅茶苦茶に壊すことが恭人への最大の復讐になると思った。僕は、恭人の前で、全てをさらけ出す準備を整えていた。
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