不始末

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「ご、ごめん」  もともと遅食いの僕は、今日は苦手なインゲン豆が出ていたこともあって、昼休みまで給食を食べきれずにいた。他の生徒はもう食べ終えており、先生も教室にはいない。給食当番だった恭人は、僕が食べ終えるまで昼休み入れずにいた。 「ちっ」  恭人と取り巻きたちはいかにも迷惑そうに僕を睨んだ。僕は胃がキュッと痛くなる。給食を早く食べ終えないお前が悪い、その無言の圧力が僕を押しつぶそうとしている。ここで「あとで給食室に持っていくから、先に片付けてくれていいよ」と言えれば楽だっただろうが、当時の大人しい僕にはその言葉を思いつく余裕はなかった。  この出来事をきっかけにして恭人は僕をいじめるようになった。給食の件で迷惑をかけてしまったという思いがあって、僕は恭人に逆らうことはできなくなっていた。そうやって恭人は僕の弱みに付け込んで、徹底的に僕の学校生活を壊していった。お気に入りの消しゴムは帰ってこなかったし、教科書には落書きをされた。そして日常的になった暴力は、身体の見えない箇所から次第に首や顔面にまで及ぶようになった。その頃、親も先生もあまり僕には関心がなかったらしく、こちらから声を上げなければ助けてもらえることはなかった。そもそも僕は恭人からの報復を恐れて、いじめの事実を誰にも打ち明けることができなかった。恭人は僕にとって学校の全てであり、学校生活は開けないトンネルのような暗闇だった。
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