不始末

7/12
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 僕が転校する直前まで、このことは担任の先生以外には知られることはなかった。クラスの誰も僕になんか興味を持っていなかったし、恭人だけが変わらずに僕を痛め続けた。帰りのホームルームで今日が最後の登校だと告げられると、恭人は僕の方を振り返り、目を丸くして口を開いた。まるで水を離れた魚のように困惑し、困窮し、悲しみに似た感情に端を発した怒りを細長い白目にむけて充血させ、僕を睨んだ。その時の顔はこれまで見たどの恭人の顔よりも恐ろしく、しかしどこか弱弱しくもあった。  僕が当たり障りのない転校の挨拶をして、いつも通りホームルームは終わった。クラスの子たちははじめこそ驚いたものの、最後の言葉をかけてくれる者は誰もいなかった。僕はもう来ることはない教室から自分の教科書や荷物をまとめ、白けた面持ちで教室を出て行こうとした。不意に恭人が僕の行く手を阻む。 「……」  彼は先ほどと同じ眼つきで僕を睨んでいた。最後にどでかい仕返しがくる。それを覚悟すると僕は少し足がすくんだ。 (来るなら来い! 今日で最後なんだ、好きなだけ殴れ!)  腹をくくった僕が目を瞑ると、恭人は拳を固く握りしめた。しかし、それで終わった。僕が目を開けた時、恭人はもう目の前から居なくなっていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!