不始末

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 僕はその拍子抜けのような安心のようなアンビバレントな感情を持ったまま、新しい学校に編入した。そこは郊外の住宅地にある大規模な学校で、教室の作りからチャイムの音色まで前の学校とは何もかもが違った。ここなら僕は変わることができるかもしれない。木目調の新しい校舎の廊下が僕にそんな期待を抱かせた。  しかし結論からいうと、この学校が僕を変えてくれることはなかった。後から気づいた話だが、この学校は生徒数も多く、転校転入が盛んで友人関係も希薄だった。前の学校以上に白けたホームルームで自己紹介を終えたあと、僕は自分の席に座って震えていた。このクラスでどのくらいの人間が、僕を僕として認知してくれるのだろう。転校生であることはもはやなんのタギングにもならない。恭人を失った今、僕が僕であるためには何が必要なのだろう。深く考えこんで頭を抱え、無色透明である僕の写像になんとか色を付けようと必死になって体をめぐる。しかしそこからは何も搾りとることができず、かろうじて出た色は卑近でつまらない産物だった。  僕をここまで至らしめたのは、間違いなく恭人の所為だった。恭人さえいなければ僕は僕である色をここまで腑抜けにされることなんてなかった。中学、高校と認知からあぶれたままの存在で終わり、国立大学の受験にも失敗して、僕は地方の中堅私立大学に滑り止めでなんとか入った。たった2年間のいじめに僕の人生はめちゃくちゃに破壊されたのだ。そんな時だった。ふと学部共通の授業の名簿の中に「汐留恭人」の名前を見つけたのは。
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