不始末

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 恭人に復讐をする。彼のすべてを奪って、自分と同じように色が抜け落ちるまで徹底的に破壊する。それが僕の頭に浮かんだ唯一のプランだった。その頃の僕は女の子に全く興味がないのもあって、かなり中性的な見た目になっていた。恭人の彼女になって彼の全てを自分だけに染め上げ、一気に抜きとってしまえば、彼は僕と同じような喪失を経験するに違いない。 そうして復讐に目覚めた僕は、人生で一番エネルギッシュになっていた。YouTubeで化粧のやり方を調べ、大学にはウィッグをつけて女物のアウターを着ていった。どうせ誰も見ていないんだ、気にすることなんてない。それに自分でもなんだが、結構サマになっているような気がした。実際、ディスカッションを有する講義では当たり前のように女子だと思われていた。やがて恭人の後をつけて大学でのルーティンを調べると、彼は3限目の終わりに必ず喫煙所に行くことがわかった。そこで僕は同じ時間に女装して喫煙所に向かい、二人きりになって声をかけられるタイミングを待った。かつてのような威圧感を失い、中央でたむろしているガラの悪い連中を避けるようにして隅に陣取りっている彼の姿に、僕は驚いて口の中が苦くなった。それはもちろん、慣れない煙草の所為だけではなかった。  早くこいつに自分の正体をバラしたい。そうしたら恭人はどんな顔をするだろう。絶望にひれ伏して泣き崩れるのか。あるいは男と性交しかけた羞恥で慌てて逃げ出すのか。それとも怒りに身を任せて僕を殴り続け、あの日の続きをはじめるのだろうか。どんな未来になるのか、予測は全くできなかったが、僕は一刻も早くこのパンドラの箱を開けたくて仕方がなかった。
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