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「ほら、こっち!ここが中央噴水広場!」
一夜明けて、俺達はオリビアの案内で街を回っていた。
もはや情報収集というよりオリビアによる街の観光案内のようだ。
「待ってよオリビア!」
一晩でオリビアとアテナは仲良くなったようだ。
宿で俺とルキウスとサンで一部屋、アテナ一人で一部屋とっていたんだが、昨晩アテナの部屋にオリビアが来ていたらしい。
スィフル村は人口が少なくて、俺達しか同年代がいなかったから、アテナにとってオリビアと仲良くなれたのは嬉しいことなんだろう。
それにしたって情報がない。
オリビアが案内してくれる場所はどこも人が多いところなのだが、誰に聞いても『人の形をしたバグなどいるはずがないだろう。何を言ってるんだ』と言って笑う。
何も得られないまま、気がつけば夕方になっていた。
俺とルキウスとサンは中央噴水広場のベンチに座り込み溜め息をついた。
アテナとオリビアは何だか楽しそうにピエロから風船をもらっている。
サーカスの宣伝として配っているのだろう。
「情報なしか…。」
糸をつけられフワフワ動いている風船を見ながらぼんやり呟く。
「みんなそんな顔しないでよ!宿にまた新しいお客さんが来てるだろうからさ、その人達にも聞いてみよ?」
オリビアが俺達を必死で慰めてくれる。
「あ、アテナ。これあげる。ほら元気出して。」
オリビアがアテナに何かを手渡した。
「バグから守ってくれるお守り。」
雫型のキラキラしたペンダントだった。
「ねえオリビア、なんでこんなにいろいろしてくれるの?他の人たちは誰も信じてくれないのに。」
貰ったペンダントを見つめながらアテナが聞いた。
「ん~、なんでだろう?何かとにかく協力したいなって思ったの。今日の予定が空いてたってのもあるけど。…ねえ、みんなは人型のバグを見つけたらいくんだよね?」
「ああ。」
ルキウスがそう答えると、オリビアは言いにくそうに口を開いた。
「…私もついて行って良いかな…?」
「え!?えーっと…俺達としちゃ歓迎するけど、宿のことはどうするんだよ?」
オリビアが俺達の旅に加わることに反対の奴はいない。
けどオリビアは宿屋の娘で、そこで手伝いをしているのだ。
「私はこの街が好きだし、家族の事も宿の手伝いもお客さんの話を聞くのも好き。…だけどね、何かどこにも馴染めなくって。」
そう言いながらも笑うオリビアの顔は、夕陽のせいか悲しげに見えた。
「でも今日は違った。みんなと居て、私も生きてていいって思えたの。…もう自分が首を吊る想像もしなくてもいいんじゃないかって。みんなと一緒に行ってもっと外を見て、自分の生きてる意味を探したいの。あ、もちろんちゃんとみんなのこと手伝うよ。…ダメ…かな?」
どんなに笑っていても、それはオリビアにとって本当の笑顔ではなかったということなんだろうか。
俺達はオリビアに『家族に納得してもらう』という条件付きでOKを出した。
「ありがとう。…家族は多分納得してくれると思う。…何でかな、家族とも馴染めてないの。やっぱり私、他の人とどこか変わってるか」
その時、オリビアの声が耳障りな音に掻き消された。
ジジジ…ジジ…
人型バグの時に聞いた音だ。
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