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「あ、ああああああ」
突然だった。
人型バグの音に呼応するようにオリビアが震えだした。
「オリビア!どうした!?オリビア!!」
俺達の呼び掛けに、オリビアが答えることはなかった。
やがて、バッツンッと何かが裂ける音がした。
そしてソレは姿を現した。
影のように黒く、鋭い脚が8本。
オリビアの背中から。
オリビアの頭の天辺から背中を通って腰の辺りまで一筋に、そこから両踵にかけて二股に、裂けていたのだ。
裂け目からは虚無のように黒く暗い空間が見えていて、その空間からバグの脚が8本出てきている。
裂け目が大きく広がったと思うと、ソレの本体がズルリと出てきた。
高さだけでも人間の倍程ある黒い蜘蛛が。
「…あり得ない…。蜘蛛型のバグなんて…。」
サンの呟きが聞こえてきた。
けど俺にはそんなことどうでもよかった。
その蜘蛛型バグの体が全て出てきた瞬間、オリビアの体がそのバグに吸収されるように消えていったのだ。
「………オリ…ビア…?」
俺は目の前の光景を信じたくなかった。
広場にいた人達の悲鳴と逃げ惑う音がする。
ふらりと一歩、前に出る。
ギギギギギギ…
軋むような音を出しながら、蜘蛛型バグが動く。
次の瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
蜘蛛型バグに打たれた胸が痛い。地面に打ち付けた左腕と背中が痛い。
視界には、夕焼け空にたくさんの風船が飛んでいくのが見えた。
さっきのピエロが逃げる時に風船から手を離したからだ。
「レオ!大丈夫!?」
アテナが駆け寄ってきた。
俺の怪我はおそらく打撲と擦り傷程度だろう。
大丈夫と答えたが、アテナの顔色は悪い。
「…オリビアに何が起きたの…?あれはオリビアなの?」
俺は"オリビアだったもの"に目を向ける。
ぎこちない動きで、準備運動とでもいうかのように関節を回すように動かしている。
「…わからない。…でも、もしかしたら弱らせたらオリビアを取り戻せたりするのかもしれない。」
オリビアの姿にさえ戻せればきっと背中の裂け目にも[リペア]による修復が効くはずだ。
何が起きたのかはわからない。
でもオリビアは血が出ていたわけでもないし、死んでいないはずだ。
「狙うなら脚だ。いこう!」
痛む体を無視して駆け出した。
「サン!ルキウス!脚を狙って動きを止めよう!」
「お…おう!」
呆気にとられていたルキウスが、俺の声にハッとして返事をした。
捕まえて、あの中にオリビアがいるなら呼び掛けよう。
俺達はオリビアと共に進むんだ。
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