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日も暮れて空もすっかり暗くなった。
「何で攻撃した?」
宿の食堂にて、ルキウスがサンの胸ぐらを掴み低く唸った。
「俺達がオリビアに呼び掛けてたの見てたはずだ。…オリビアを助けたかったんだぞ…!!」
ルキウスが震えている。
それは怒りか悲しみか、あるいは両方だろう。
「…ルキウス止めよう。あの時はアテナが危なかっただろ…。」
俺はそう言ってルキウスの腕に手を置いた。
ルキウスはサンを掴んでいた手をゆっくりと手を離すと、力なく下ろした。
サンは黙ったままだ。
「確かにアテナが危なかったのはわかる。けどよ、蜂の巣にすることはなかっただろ…!…もっと他に手があったんじゃねえか…?…何であんなに撃ち込んだんだよ…」
そうだ。サンは二撃めに連続でたくさんの[リペア]を撃ち込む攻撃[リペア・連]を使った。
ただの[リペア]で牽制することも可能だったのに。
「………何言ってんだ。」
サンが口を開いた。
「バグは倒さなきゃいけない存在だろ?倒したことの何が悪いんだよ。」
サンはルキウスが何に怒っているのか理解できないという顔をしていた。
「違う…!バグじゃなかっただろ!?オリビアだった!」
サンの言葉に思わずカッとなって叫んでしまった。
「いや、バグだった。バグだったから[リペア]が効いた。」
それは確かにそうだ。
だけど元はオリビアだったのに、なんでそんなにすぐに割りきれるんだろう。
「…ねえ、あれはなんだったの…?オリビアに何が起こったの?」
アテナの震えた声に、ハッとして冷静になる。
ルキウスがアテナをなだめながら、俺達はテーブルについた。
「オリビアはバグに喰われたってことなのかな…。」
ポツリと呟いた。
隣ではサンが、俺の怪我を[リペア]で治療している。
「いや、喰われたようには見えなかったな。どうにもオリビアからバグが出てきたように見えた。」
「…バグの攻撃の一つだったのかな…。」
俺の呟きにルキウスとアテナが反応する。
あれがバグの攻撃だったとして、人の背中ぶち破って出てくるなんておかしいだろ。
どんな攻撃だよ、それ。
「…そもそもとして、バグの種類に蜘蛛はいないはずだ。"バグ"っていうのは虫を意味するんだが、その"虫"は様々な小さな生き物をさす。その意味で言えば蜘蛛も虫だが、俺は今まで昆虫型のバグしか見たことがない。」
俺の怪我を治しおえたサンが言った。
思い返せば、俺も蜘蛛型のバグなんて初めて見た。
ちなみに蜘蛛は昆虫ではなく、節足動物に分けられる。
「じゃあ特殊なバグによる特殊な攻撃だったってことかよ。」
サンに感謝を告げつつ、聞いてみる。
「わかんねえよ、俺だって。……案外オリビア自身が元からバグだったんじゃねぇの?」
サンのその言葉に、俺達3人は固まってしまった。
考えないようにしていた、オリビア=バグの可能性。
バグがオリビアの姿をしていたのか、オリビアがバグに変わったのか…。
これがもし真実なら今まで倒してきたバグは…。
「何にしたってバグは倒さなけりゃこっちがやられるんだ。迷ってる間に全部失うなんて俺はごめんだ。」
サンの言葉に、頷くことも首を振ることもできなかった。
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