3-●●●■■-No.666の記憶

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動かせない視界から見える範囲でわかることは、ここは何か研究でもしている施設なんだろうということくらいだった。 いろんな機械やいくつものパソコン、資料の束のようなものも見える。 この部屋の中には人が3人いた。 「これが見えるかしら?」 ふと目の前に白衣を着た女性が来て、人差し指をスーッと横に動かす。 目で追えということなのだろうが、体の主は女性の顔を見ているだけだった。 目の前の女性はどことなくオリビアに少し似ていた。 瞳も髪も明るい茶色をしていた。 ただオリビアよりもなんというか、大人、いや、歳をとっているというべきか。 女性はその後もいろんな事を試していた。 「このハンドサインを真似して」とか「これは何かわかる?」とか。 ただこの体は、ずっとぼーっとして動かなかった。 「博士、今はこれ以上何をしても無駄かもしれません。混乱している可能性もあります。」 しばらくして女性は、奥にいた中年男性に話しかける。 「…ここまで来て『失敗でした』じゃ話にならん。まあいい。身体検査を先に進める。レイチェル、お前は意識をハッキリさせる手立てを考えておけ。脳は完成しているんだ。理解していないわけじゃないだろう。」 博士と呼ばれた中年男性は、鼻をふんと鳴らしてそう言った。 あの女性はレイチェルと言うようだ。 「コーイチ、お前はこっちを手伝え。」 博士はもう1人そこにいた人物にそう言うと、この体を車椅子に乗せて移動し始めた。 その後ろからコーイチと呼ばれた男が付いてくる。 そして何やら台に寝かせられたと思うと、頭や腕に機械を装着される。 「心拍、異常なし。魔力回路も安定しているな。」 モニターを見ながら博士がぶつぶつと呟いている。 コーイチは血液採取をしている。 「…ん?…コーイチ、前回の検査結果を出せ。」 博士が何かに気付いたようだ。 「何か異常ですか。」 資料を渡しながらコーイチが聞いた。 「…少し気になるが、まだ出てきたばかりだ。安定していないだけかもしれん。しばらく様子を見てまた検査をする。」 不安の残る言葉とともに、俺の視界はぐるりと回る。 気が付くと目の前にいたのはまたレイチェルだった。 この様子だと、別の日のようだ。 どうやら俺は誰かの記憶の追体験のようなことをしているみたいだ。 レイチェルは体温や脈拍を計っている。 その後ろでは博士とコーイチが何やら揉めている。 「…何度も言ってるだろう。この実験体は失敗だ。言っただろう、ここまで来て失敗でしたじゃ話にならんと。」 「まだそう決めつけるのは早いのではないですか!?今からでも症状を抑えることは可能なんですよ!?」 冷たく言い放つ博士と、激昂するコーイチ。 この揉め事の中心はおそらくこの体の主のことだ。 「今から症状を抑えた所で何になる?それでは意味がないんだ!とにかくこの実験体No.666は廃棄する!!私は次の実験体の準備をする。廃棄は任せるから邪魔をするな!!」 博士はそう言うと、コーイチに背中を向けて作業をし始めた。 その背中に、コーイチは何とも言えない悔しそうな顔を向けていた。 レイチェルは眉間にシワを寄せた顔をしていたが、何も言わなかった。 そこで電源が切れるかのごとく、視界が真っ暗になる。
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