19人が本棚に入れています
本棚に追加
『時間がない。さっさと行くぞ。』
人型バグはそう言うが、別れを言う時間くらいはくれるようだ。
「サン、2人を連れてスィフル村に帰っててくれ。俺はどれくらいかかるかわかんないけど、こっちが終わったら帰るから村で待っててほしいんだ。」
サンの前に立ち、サンに告げた。
お前も一緒に、と言いたそうなサンに頼むぞと強引に言った。
「アテナ、ちょっと行ってくるよ。先に村に帰って待っててほしい。俺もちゃんと帰るから。」
アテナはまだ俺を止めることを諦めては居なかった。
それでも俺も譲れない。
それを悟ったのか、俯いて何も言わなくなってしまった。
「ルキウス。いつだって背中を押してくれたこと…感謝してる。アテナとサンのこと頼むな。」
ルキウスだけは笑顔で俺の言葉を聞いてくれた。
「バーカ、お前に頼まれんでもわかってるよ。…ほら、」
ルキウスは右手を差し出した。
俺はその手を掴み、握手を交わす。
「餞別だ!」
ルキウスがそう言うと、掴んでいる右手からビリビリっと電撃が流れてきた。
しかしそれは感電するような電流ではなく、俺に力を与えてくれる雷魔法の一種のようだった。
「これでレオも簡単な雷魔法なら少しは使えるだろうよ。まあ、今渡した魔力が尽きたら終わりだけどな!」
ルキウスはニカッと笑った。
せっかくルキウスが笑顔で送り出そうとしてくれているのに、俺の方が泣きそうだ。
別に永遠の別れってわけでもないのに。
「ありがとう…。行ってくる!」
じわりと滲んだ涙を隠すようにぐしゃりと笑った。
ルキウスとは親友と言えばいいのか、相棒と言えばいいのか、兄弟と言えばいいのか…。
時には喧嘩をして、時には共に戦って…助け合い、語り合い、笑い合って過ごしてきた。
行かなければ死ぬ、とかいう命をかけた場所に行くのに、ルキウスの支えがないのは精神的にツラい。
それでも…。
「行こう。案内してくれ。」
俺は人型バグの方に向き直って言った。
俺の言葉に、人型バグが動きだそうとした時だった。
「…あなた一体何者なのよ…?レオをどこに連れていくの!?」
アテナが人型バグに叫んだ。
『…お前こそ何者だ?…お前の"根"はNo.ZEROのようだが、No.ZEROは銀髪でもそんな緑の瞳でもないはずだ。名前も違っ』
「!!黙って!!」
水魔法[Calabrone]
水の玉が人型バグを囲むと、潰すようにぐっと集まる。
しかし人型バグは2mほど横に瞬間移動のように移動して避けた。
『…これ以上邪魔をしないなら今は黙っててやろう。No.1037がどうするのか最終的に判断するのはこいつ自身だ。』
アテナは下唇を噛んで悔しそうな、後悔しているような顔をしていた。
『行くぞ。本当に時間がない。』
最初のコメントを投稿しよう!