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▼RIKU
俺の"リク"という名前は、恩人である先生につけていただいた。
『この実験体は失敗だ。』『実験体No.666は廃棄する。』
…この言葉とともに今でも頭の奥で繰り返される廃棄場の光景。
それは実験体を生き物として扱わない世界だった。
4年ほど前、人造人間として目覚めた時、俺の体は人の10倍の早さで老いていくことが発覚した。
原因は造り出される初期段階での計算ミス。それはメイン研究室で博士と呼ばれているゲノムのミスだった。
そのミスの隠蔽のため、完璧な人造人間を造り出すというゲノムの信念のため、俺は廃棄されることとなった。
研究所の一階にある解体場で、俺の目の前で実験体の1人が解体されていった。
自我がないとはいえ、心臓は鼓動し、生きていたというのに。
皮を剥ぎ、肉を削ぎ、内蔵を取り出し、骨を抜き取り、目玉をくりぬく。
そして再利用出来るものは洗浄槽に、廃棄するものは生ゴミとして棄てる。
くりぬかれた黄金色の瞳の目玉が、洗浄槽に運ばれていくまで、ずっと俺を見ていたのではないかと今でも思っている。
俺の番が来たとき、実験体として目覚めたばかりの俺でも恐怖というものを感じた。
それと同時に、腹の底から沸き上がる怒り。
しかしその時の俺は、感情の表し方すらわからなった。
いざ解体台に乗せられそうになったその時、解体場の扉が荒々しく開かれた。
そして入ってきたのは、俺が目を覚ました時に居た白衣の研究員のうちの1人、コーイチと呼ばれていた人だった。
コーイチは何も言わずに俺に自分の白衣を被せ、俺を背負ってそこを抜け出した。
解体場の作業員は、追いかけて来なかった。ずっと虚ろな目で解体作業をしていたのだから、解体したくなかったのだろう。
コーイチはほとんど何も持たずに、俺を連れて研究所を逃げ出した。
住んでいた家もすぐに引き払い、遠い土地で俺の10倍の早さで老いていく症状の治療を始めた。
時間はかかったが、俺の症状は完治した。他人と同じ早さで歳をとることが出来る体になったのだ。
しかしもうすでに老いてしまった分を取り戻すことは出来ない。
人造人間として目覚めた時の肉体が16歳相当で、本来なら現在20歳程のはずだが、見た感じは40代だろう。
しかし症状が完治したのだから、俺にとってはそんなことどうでもよかった。
こうした流れの中で、俺はコーイチのことを先生と呼ぶことになった。
そして先生は俺に名を与えてくれた。
『僕、名前を付けるの上手くないんだけど…うーん…そうだね、"リク"はどうだい?僕の故郷では昔、6のことを"陸"と書いていてね、これをリクと読むんだ。
君の出生は人造人間実験体No.666。それは嫌な事かもしれないけど、それをねじ曲げる必要はないだろう?だからNo.666にちなんだ名前を考えてみたんだけど、どうかな?』
俺の生まれた経緯も理由も、他人に隠しても自分の中ではそれが事実。
そうして俺は"リク"となった。
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