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「…っ!!!!」
声をあげそうになった。
水槽の中に揺らめく蘇芳色の髪、見慣れた体…。
頭や体にたくさんの管やコードが繋がっているその人間は、紛れもなく俺だった。
信じられない光景に、無意識にフラフラと水槽に近づく。
研究員の1人にぶつかりそうになって、ハッと我に返ったが意味はなかった。
研究員やゲノムの目に、俺は見えてない。
ここに立っているはずの俺の姿が、こいつらには見えていない。
さらに、研究員は俺の体をすり抜けた。
幽霊にでも、なった気分だ。
『これがお前の現状だよ。』
リクの声がして振り返ると、そこにはいつの間にかリクが立っていた。
しかしバグのように黒かったはずの姿が普通の人間と同じようになっていた。
俺にくれたゴーグルと同じようなものを着けていて目はわからないが、声質の割りには歳を取っている。見た感じ40代くらいだろうか。
そして髪の色は真っ白だった。
リクの姿も研究員には見えていないようだった。
リクは水槽を指差して言った。
『今見ているのは現在のお前の肉体。人造人間として造られているところだ。そしてここに居るお前は』
リクは指先を俺にずらす。
『あれの精神体…と言って伝わるか?
お前が今まで過ごしてきた世界、それを黄昏世界と言う。
あの水槽のやつの頭にいろいろくっついてるだろ?あれの先にコンピューターって機械がある。そのコンピューターの中に作られた仮想現実空間、それが黄昏世界だ。今この瞬間も、俺達は黄昏世界の中にいる。』
わからない、いやわかりたくない。
信じたくない、信じられない。
『今見えている研究所は、現実にある研究所の3Dマップデータと監視カメラ映像等をもとに作られている。この研究員たちに俺達は見えてない。まあ、あちら側…いや現実世界の映像が立体的に映し出されてるだけみたいなもんだ。
俺は現実世界の人間だが、無理矢理黄昏世界に意識だけで入り込んでる。上手く入り込めてない時は不具合だと認識されてたみたいだな。』
リクが話している間も、研究員達が俺やリクの体をすり抜けて動いている。
『人造人間に自我を持たせやすくするため…。造り出した実験体の脳を解析して仮の人格を形成、黄昏世界で生活させる。その記憶は常に実験体の脳に流し込まれる。それに呼応して自我を目覚めさせるつもりなんだよ。』
リクは、メイン研究室で研究員に怒号を浴びせているゲノムを睨みながらまた続ける。
『荒野の館に居たゲノムは、ここに居るこのゲノムの記憶の一部と性格を黄昏世界の住人に植え付けたものだ。いつかお前が目覚めるきっかけとして、この世界のことを説明する為に存在していた。まあまだ準備不足だったようだがな。』
リクの話に声も出ない。
『ちなみに今までの実験体の中で自我が目覚めたのはお前含めてたった2人だけだ。』
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