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「とりあえず、1本貰おうかな」
「おいおいおい、こんな時間に突然上がりこんどいて礼儀がなってないんじゃないの? それ、誰の家のだと思ってる」
「安積玲ちゃんちのです」
「まずは礼を言え、礼を」
「ありがとう、玲。今日も色々あるのね!」
にっこり我が物顔で冷凍庫を漁り、コンポタ味のアイスを手に取る。もちろん私はああいうアブノーマル系は食べない。いくつか揃えた奇抜組は全部、真理愛のためだ。
彼女はマフラーをぐるぐる巻きにして床に置き、コートを脱ぎ捨てて温まったコタツに滑り込む。寒さで縮こまった足をゆったりまったりと伸ばしきったところで、なんのためらいもなくゲテモノアイスの袋を開けた。
真っ黄色の大きなバーにぱくりとひと口。「美味しい」と目を細めた彼女は、ため息とともにうっとりと笑みを浮かべる。
変人奇人とは、まさしくこの女のことを言うんだと思った。
「で、今日はこんな夜更に何のご用事で」
「そう! 聞いてよ玲、マサ君がね」
マサ君、とまるで愛しい人を呼ぶように口にした名だが、マサ君は決して真理愛の彼氏ではない。他所様の彼氏だ。それでも私は、まだ彼が独身で、ごく普通のサラリーマンをしているだけマシだと思ってしまう。
以前付き合っていた彼は、全身ビッチリ刺青が施された明らかに堅気ではない人間だった。その前は結婚詐欺集団の幹部。もちろん愛のため、ご丁寧にも詐欺に引っかかってさしあげたらしい。70代の不動産王だったこともある。
彼女持ちの一般人。うん、随分とマシだ。
梶真理愛とはその名の通り純粋を体現したような女で、惚れっぽく、なおかつ少し、いやかなり、ズレた人間だった。
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