ジャンクフード

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✩.*˚ 「あー!ゆーしゃだ!」「よわよわゆーしゃ!」 子供たちの甲高い声に呼び止められて足を止めた。 ペトラに呼ばれて、城の端っこの方にある孤児院みたいな場所に足を運んだ。 ここはアーケイイックの中で迷子になった子供や、《略奪者》によって孤児になってしまった子を一時的に預かる場所だ。 家族や引取先が見つかるまで預かるが、もし引取先が見つからなかった場合はアンバーの計らいで城で働けるように引き取るらしい。城で働いている人たちはほとんどがそういう生い立ちの人たちのようだ。 最初は僕の事を嫌っていた子供たちだったけど、ペトラが間に入ってくれたから少しずつ仲良くなれた。まぁ、ナメられてるけど、嫌われているんじゃないんなら僕はそれでも良いかな、と思っている。 「ゆーしゃ!《ドッジボール》しよー!」「えー!《だるまさん》がいいー!」と口々に遊びに誘ってくれる。僕が教えた遊びだ。子供は順応が早いから楽しいことはすぐに覚えてくれる。 子どもたちに絡まれていると、他の子に手を引かれてペトラが迎えに来てくれた。 「いらっしゃいませ、ミツル様」と笑顔で出迎えてくれたペトラは《サンベルナ》と呼ばれる小麦色の肌のエルフだ。 元々アーケイイックにいた種族ではなく、もう少し南の方で暮らしていたが住めなくなってアーケイイックに流れてきたらしい。そういう移民のような魔族もアーケイイックを頼ってやってくる。 ペトラも過去に《略奪者》の被害を受けたが、危ない所をアンバーに助けられて、双子の弟のイールと一緒にアンバーの養子として引き取られた過去がある。 彼女らも《勇者》としてこの世界に召喚された僕のことが大嫌いだったけど、色々あって今では仲良しだ。むしろペトラに至っては大好きですらある。 ひょんなことから気に入られて、彼女から《求婚》を意味する《花かご》を贈られて、そうと知らずに受け取ってしまった。 そういうわけで僕はペトラとは婚約者という関係になってしまって今に至る… 人生始めてできた彼女が《魔王の愛娘》とは笑えない。 「ミツル様。実は子どもたちがすごく良いものをプレゼントしてくれたんです。ミツル様が珍しい食べ物を調べていると仰ってたので一緒に召し上がられないかな?と思って」 「へぇ、なんだろう?」 「僕が見つけた!」と元気な声で獣人の男の子が手を上げた。 「木に登って取ってきたの!ペトラ様の大好きなおやつ!」 「今ね、井戸で冷やしてるんだよ!」「甘くて美味しいんだよ!」と子どもたちが口々にヒントをくれる。 《木に登って》ってことは木の実か何かかな? 「へぇ、それは美味しそうだね」と相槌を打ちながら子供たちの話を聞いた。 獣人の子供もいればエルフの子もいる。みんな僕よりずっと物知りだ。 ここに来てるということは、辛いことがあったかもしれないが、それでも前向きに生きようとしてる姿には励まされる。 しばらく子供たちと一緒に遊んで、小腹が空いたところでペトラに呼ばれた。 彼女は手に収まるくらいの小さな藤のかごを持っていた。どうやら例のおやつはその中に入っているみたいだ。 「うふふ。めったにお目にかかれない珍しいものですよ。楽しみにしててくださいね!」と彼女が僕の期待を更に膨らませた。 子供たちと別れてペトラと一緒に僕の自室に戻った。 「みんなの分もあったら良かったのですが、流石に数がないので…」とペトラは申し訳無さそうにしていた。 「そんなの貴重なもの、僕がもらってよかったの?」 「子供たちがそう言ってくれたので。あの子たちもいつも遊んでくれるミツル様にお礼がしたいって言ってて、これを一生懸命探してくれていたんです」 「僕のために?」 そんなの聞いちゃったら涙でちゃうよ…本当にいい子たちだなぁ… 後でちゃんとお礼言わなきゃ。
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